2023/12/31

Look Back 2023 その2

 2023年もいよいよラストです。と、いうわけで例年、誰に頼まれる訳でもなく勝手にやってますが、全く個人的なマイ・ベスト2023を振り返り。

 昨日に引き続き、今日は音楽編。今年もあまり新譜を手に入れることが少なく、もっぱら中古アナログレコードをボツボツとゲットしていたという次第。ので、セレクトするのにかなり迷ったのだが、2023年のマイ・ベストを選んでみる。

順番はこんな感じ。

 1位:『i/o/ Peter Gabriel

 2位:『Let’s Start Here/ Lil Yachty

3位:『Lean In/ Gretchen Parlanto & Lionel Loueke

4位:『The Barad Of Darren/ Blur

 5位:『The Mashmallow Man/ Gary Wilson

     『Leisurevision/ Leisure

         Wait Til I Get Over/ Durand Jones    

 今年は、春先に「リル・ヨッティ」の新譜を聴いて、コレだ!と感じ(今年度の研究室のテーマソングにしたし)、そこから中々いいアルバムに出会えなかったが、年末のギリギリで、「ピーター・ガブリエル」の新譜が何と20年振りのリリース。これが、すさまじい名盤で、年末ずっと聞いていた。マジで泣けるので、必聴。

 という訳で2位は「リル・ヨッティ」に。ラップ・アルバムというよりは、非常にサイケで、70年代や80年代を思い起こさせながらも現代的な音作りがされている名盤だと思う。

 3位は「グレッチェン・パーラト」のリオネール・ルエケとのコラボ作。ミニマムなヴォーカルとギターの共演が素晴らしい。80’sの女性コーラスバンド、クライマックスの「I Miss You」のカバーが最高。

 4位は「ブラー」の新作に。期待値が高かった分最初に聴いた時は若干物足りなさがあったが、聴けば聴くほど味がでてくるアルバム。さすが、デーモン・アルバーン。個人的には「Barbaric」が名曲。

 5位も選び切れずに3作品。「ゲイリー・ウィルソン」は相変わらずのアヴァンギャルドでヒネたメロディーで、カッコいい。
 「レイジャー」は朝のラジオでかかっていて、良かったので新譜をゲット。ニュージーランド出身のエレクトロ系という感じだが、本作は70年代から90年代のいろいろな要素がつまった楽曲群。最近こんな感じが好きかな。
 ソウル系で1枚、ということで「ドラン・ジョーンズ」の新譜を。このところバンド形式だったが今回はソロ作。骨太で力強い。そして、丁寧なつくりは新しい(と感じる)。ダニー・ハサウェイの「Someday We’ll All Be Free」のラップのテイストも盛り込んだカヴァーが良い。

 そんなこんなで2023年もたくさんのいい音楽に出会えた。さて、2023年はどんな音楽に出会えるでしょうか!

 よいお年を!(TM)

2023/12/30

Look Back 2023 その1

 2023年もいよいよラストです。と、いうわけで例年、誰に頼まれる訳でもなく勝手にやってますが、全く個人的なマイ・ベスト2023を振り返り。で、まずは映画編。


 映画はまず映画館のスクリーンで観るべし、という主義。今年は夏から、いろいろとバタバタし過ぎで8月以降映画館にあまり足を運べなかった。と、いう数少ない観た映画34作品の中から、ということなのだが、前置きが長くなるが、

 ・一番泣いた映画                                               →Blue Giant(立川譲)(マジでハンカチが足りないくらい泣いた)

 ・一番アガッた映画                                 →『アクロス・ザ・スパイダー・バース』(今のアニメの最高到達点、マジで腰を抜かした)

 ・一番笑った映画                                  →『逆転のトライアングル』(リューベン・オストルンド)(ラストシーンも素晴らしかった)

 ・一番演技に驚いた映画                               →『TAR(トッド・フィールド)(ケイト・ブランシェット、マジ恐るべし)

 ・一番学生に薦めた映画                               →『エブリシング・エビリウェア・オール・アット・ワンス』(ダニエルズ)(まさに現代の映画!これがアカデミー作品賞とは時代が変わったな!)

という感じで、ビッグ・バジェット系のこの5作品はランキングから外すことにした。

さて、今年のマイ・ベスト5はこんな感じ。

 1位『アフター・サン』/シャーロット・ウェルズ

 2位『クライムズ・オブ・フューチャー』/デヴィッド・クローネンバーグ

 3位『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』/古賀豪

 4位『エンドロールのつづき』/パン・ナリン

 5位『ベネデッタ』/ポール・ヴァーフォーヴェン

 『アステロイド・シティ』/ウェス・アンダーソン

    『別れる決心』/パク・チャヌク

 『レッド・ロケット』/ショーン・ベイカー

 今年は、ずばぬけて好きな映画がなく、かなり迷った。そんななかで、

 『アフター・サン』が、非常に良かった。もう一度観たいと(何故なら一度見ただけでは、理解できないことが多いので)一番感じた映画。11歳の娘と父親との2人旅を回顧してしている設定の映画で、個人的に自分の娘と重ね合わせてしまうので、完全にもう1回観たら号泣することが分かっている。そして、クライマックスで流れる、クイーン&デヴィッド・ボウイのあの名曲の演出が、素晴らし過ぎる。

 『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』はクローネンバーグ久々のクローネンバーグらしい映画だったが、世間の評判は微妙な感じだった。が、設定(「人類に痛みという感覚がなくなった近未来?に、新しい臓器を、タトゥーを施して摘出するという行為をアートとして表現する」と書きながらこの時点で既に意味不明感ビンビン!)の異才さ、役者の演技、美術のデザインのオリジナリティ、すべて変で、奇妙で、と観ながら恍惚とする。

 『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は評判が高かったので、まさか!と思い観たら、感動した。今のアニメにはない(若干前時代的な)テイストが良く、水木しげるのメッセージも十分伝えている。最後の最後に「鬼太郎誕生」のタイトルが出る瞬間はマジで泣ける。

 『エンドロールのつづき』は、映画を巡る、インド映画らしくないインド映画。巷では『ニュー・シネマ・パラダイス』の再来と話題になっていたが、全然違う!そして、全然、こっちの方が良い!! のである。映画の本質について、そして、今後の映画を考えさせる、非常に射程の深い映画だと思う。

 5位は選べず、たくさん挙げてしまう。『ベネデッタ』はポール・ヴァーフォーヴェン節全開で素晴らしい。最初から最後まで開いた口が塞がらない傑作。それにしてもクローネンバーグ80歳、ヴァーフォーヴェン85歳、でこの作品群とは。すさまじすぎる。

『アステロイド・シティ』は、あまり話題にならなかったが、ウェス・アンダーソンが、ますます意味が分からない(褒めてますよ)所まで到達していて、興奮した。

『別れる決心』は、さすがのパク・チャヌク。ストーリーの展開と色気が半端ないです。

『レッド・ロケット』は、これほどダメな(史上最高に感情移入できない)主人公の話で、ここまで魅せて面白い作品づくりに感服。新鋭、スザンナ・サンの存在感が良い。

 という感じで、来年もいい映画に巡り合いたいですね。

 明日は音楽編、いきますよ。(TM)

2023/12/29

Look Back 2023 前振り

 2023年もいよいよラストです。と、いうわけで例年、誰に頼まれる訳でもなく勝手にやってますが、全く個人的なマイ・ベストを映画と音楽で振り返る。

 という訳なのだが、ちょっと前振りで、今年の写真データを整理していて思い出したトピックを。

 夏に家族の用事で都心に出て、4時間余り時間を潰す必要が出てしまい、近くにあった神保町シアター(設計:日建設計)を観に行く。すると、丁度、映画が一篇始まるいいタイミングでの訪問となり、えいっ!と観劇した次第。映画館で「男が惚れる男たち」(昭和の)特集の上映をしていて、観たのは「ボクサー」(監督:寺山修司)。寺山修司監督に惹かれての鑑賞だったのだが、この映画が、予想に反して非常に素晴らしかった。

 まず、寺山修司監督の作品なのだが、アート的ではなく非常に商業的な映画。そして、主演が菅原文太と清水健太郎で、まさに、丁度、ちょっと前に公開されていた『ロッキー』と重なる。と、いうか、どっちかというと「明日のジョー」かな。ボクサーのファイトする空気感が濃密に描かれており、この時代のボクシング映画、しかも邦画では、かなり異端だったかもしれない。何と言っても、昭和の空気感が半端ないのが、良い、のである。来場者もほとんど高齢者男性ばかり(自分が一番年下かも、という感じ)で、ある意味タイム・スリップした感覚を味わった。

 この劇場、都市型小劇場ということで、共用部(ロビー)が以上に小さいので、終演後、併設した別ホールでやっていた吉本系のライブを観終わった若い女性客と、我々が交わって、何とも形容しがたいミスマッチ(よく言えば、キッチュ)な雰囲気を形成していた。いやはや。でも、これも一興。

といった映画にまつわる、休日の午後でありました。(TM)

2023/12/22

トアロードでデリカテッセン

 所用で神戸まで赴く。ものすごく弾丸行程だったのだが、近くまで来たので、昼ご飯に神戸元町トアロードにある、「トアロード・デリカテッセン」へ。

 なぜかというと、ここのサンドイッチが、作家の村上春樹氏が「一番おいしいサンドイッチ」とエッセイの中に書いていたから。一度、食べてみたいと長年思っていたのだが、念願の対面。

 なるほど、確かにこういうのが美味しいものだなぁ、と実感。素材のよさを、シンプルに表す、ということなのだと思う。建築もおんなじだな、と一人で納得。

 そして、帰路に就く新幹線で、『街とその不確かな壁』を読み進めるのであります。疲労困憊となるような、慌ただしい年の瀬だが、ゆっくりと時がながれる雰囲気を、小説に託している自分がいる。元気にいきましょう。(TM)

2023/12/18

ねじまき鳥クロニクル

 ちょっと前の話。唐突な話で恐縮だが、村上春樹の小説の中で一番好きな作品は『ねじまき鳥クロニクル』である。

 これは、学生時代に読んで衝撃を受けた。それまで村上春樹小説は全部読んでいたのだが、1・2巻(第1部&第2部)が始めに出て、それを読んだ時の感想は、「残念ながら、村上春樹は終わったな。。。」という感じだった。その2巻で完結していたと思ったら、半年くらいして突如3巻目(第3部)が出て、それを読み終えたとき、感動し過ぎて、京都の下宿を出れなくなってしまい3日くらい茫然として過ごした記憶がある。それくらい、個人的に琴線に触れた作品だった訳だ。

 と、この話をし出すと長くなるので割愛するが、その『ねじまき鳥クロニクル』が舞台化されたのが3年前。コロナで公演が中断してしまい、その再演が11月にスタートした。ずっと気になっていたのだが、なかなか時間が取れずに諦めかけていた折、たまたま近くの仕事がキャンセルになったタイミングで、東京芸術劇場に馳せ参じた。ダメ元だったが、残り2席(多分)で滑り込んだ。

 いや、あまりの素晴らしさに、驚嘆&感動の嵐。50歳を過ぎると、色んなことに触れても感動しなくなってきているのだが、、、いや、素晴らしかったです。まさに身体性というものをダイレクトに感じられる劇。演出・振付(インバル・ピント&アミール・クリガ―)、そして舞台美術は圧巻。そして、大友良英トリオが生で演奏しているのが(これ、恥ずかしながら、劇場に行くまで知らなかったけど!ライブ演奏とは、イヤハヤ。)、劇の良さを別次元に押し上げている。と、感じ入る。

 最近“AIの裏をどうかくか?”といいうことを、ずっと、漠然と考えているのだが、「こういうことか!」とひとりで納得。現在進行形で『街とその不確かな壁』を、非常に遅ればせ読んでいる身にとっては感慨もひとしお、でありました。(TM)

2023/12/16

メイキング・ムーヴィーズ

 最近、アナログ・レコード盤が、静かな人気を呼んでいるようで、中古レコードの値段が、ものすごく上がってきている、ように感じる。なので、なかなか良い盤に手を出すことができなくなってきている。アナログ・レコード派としては、厳しい時代になってきたなぁ。。。という感じ。ちょっと前までは、本当に低価格だったのに。。。と言っても始まらない。

 IT技術が進んでくると、アナログへの逆へのベクトルも働くのだろうが、これもその一端なのかもしれない。

 と、そんななか、レコード店で、ダイア―・ストレイツの『ムーヴィング・ピクチャーズ』を、いい価格で掘り当てる。名曲「ロミオとジュリエット」収録の名盤。そして、何といってもジャケットがいい。真っ赤な無地のジャケット、そしてエッジの水色ラインのデザインが、最高、である。ミニマル、かつビビッドなジャケットをみながら楽曲を堪能するにであります。(TM)

2023/12/13

旧市民会館の幻影

 先週末大宮方面へ所用があり、閉幕ギリギリのタイミングで開催されている「さいたま芸術祭2023」の会場を訪れることができた。旧市民会館おおみや(設計:加藤渉)が昨年閉館したのだが、再び会期中のメイン会場とされて開館されている。アート祭のディレクターを、現代アート集団の“目”がつとめており、このメイン会場の構成も、予想を超えて只ならぬ物に変容していた。

 劇場内の空間を、ガラスのパーティション(壁)を設置し室や空間を分断し、かつ、劇場内の裏方空間も含めて全て見せる空間構成がなされている。なので、施設内をすべて観覧しようとすると、最低2回は屋外に出て、また入り直す(=施設に計3回入る)、という動線ができあがっていて、まさにコンバージョンの面目躍如である。施設内を巡っているなかで、作品が展示されていたり、旧施設が閉館して打ち捨てられた様子がガラス越し見えたりする空間が、万華鏡のように現われてくるので、ワクワク感がとまらない。

 劇場は非常に形式が決まっているビルディング・タイプなので、設計する際はその標準型をどう崩していくか、ということを僕たちも考えるのだけど、そのヒントがリアルに(実際出来てるし!)体感できる。後、会場内を清掃している人を見かけるのだが、これもおそらく作品の一部になっている(アート・パフォーマンスになっている、多分)感じも、ユーモアが効いていていい。

 あまり時間がなく駆け足で見るような感じだったのだが、建築のいろいろな可能性を現出させていて、はやり観る者を元気にさせる取り組みに感銘。そうです、元気にいきましょう。(TM)



2023/12/05

金色の絨毯

 今年は非常に暖かいため、紅葉が一様に遅い。大学内のイチョウの木の葉っぱもやっと黄色になり、見ごろを迎えている。

かつて、武蔵野大学の建築デザイン学科を創設された河津優司先生とキャンパス内を歩いているときに、「水谷君は、まだ若いから、分らんやろうけど、毎年この紅葉の姿を見ると、後何年元気にこんな景色を見れるのかなぁ、と思うよ。」と、少し笑いながら話をされていたのを思い出す。何となく、それが分かる年齢に近づいてきているように思う。黄色い葉っぱが地面に敷き詰められている様子は、本当に美しくて、晴天の日は金色の絨毯の上を歩いているような気分になる。そんな様子を実感すると、世の中捨てたもんじゃぁない、と改めて感じたりする。

さて、12月に入り、いよいよ年末が近づいてきているのを実感しながら、いろいろと整理をおこなうつももり。ちょっと前のこともブログにUPいたします。(TM)

2023/11/30

芹沢光治記念館

 静岡の沼津に所用で出かける。中心市街地から少し足を延ばして、海沿いの施設、芹沢光治記念館(設計:菊竹清訓)を見学する。

 設計者の設計作品としては、有名な建築ではないが、非常に小さな建築の良さが凝縮された建築。他に、来館者がいないので、ゆっくりと建築を堪能する。

 モダニズム期のブルータ―リズムの風合いで、鉄筋コンクリートのテクスチャーのラフさが心地よい。建築を登っていく階段がこの建築の中心をなしていて、各階のレベルで、諸室や外部との多様な関係性ができあがっている。設計していて楽しかっただろうな(と勝手に妄想)、と思わせるような空間になっている。

 こういう建築に触れると、なぜか何となく得した気分になる。そして元気になるので、ありました。 (TM)

2023/11/11

学問の地平から

 武蔵野大学の広報の一環で、教員の専門分野を紹介するページ「学問の地平から」というコーナーがあり、順番が回ってきました。現在、大学HPにUPされました。

研究者紹介 - 学問の地平から - | 武蔵野大学[MUSASHINO UNIVERSITY (musashino-u.ac.jp)

お時間ある時にでも、ご笑覧ください。(TM)

2023/11/04

トロールの森2023

杉並区の善福寺公園で開催されている屋外アート展『トロールの森2023』に作品を出展しています。

野外×アート トロールの森 (trollsinthepark.com)

作品名は「Moby Grape」。

アート展の総合インフォメーションを設計・制作しました。例年のインスタレーションの枠を超えて、今年は、いよいよ、建築作新をつくりました。インフォメーションの内部では、自由に絵を描けるコーナーもありますので(極小空間ですが!)、アート展の雰囲気ともども、場の楽しみを味わっていただければ、うれしい限りです。

会期は20223/11/3から23日まで開催しています。入場無料ですので、お近くにお越しの際は、是非お立ち寄りください。 (TM)




2023/11/01

指さす標識の事例

 ずっとバタバタで、本を読む時間が中々なかったのだが、秋に入ってきたので、無理やりにでも時間をつくろうと励んでいる。読みたい本が積読(つんどく)状態で、たくさん待機中な訳だが、ここ1年ほど、ずっと読みあぐねていた本があった。

 イーアン・ペアーズ著『指さす標識の事例』。ジャンルは、推理小説、ということになるのだが、時代背景が1600年代のイギリスで、また文章が微妙な感じで、読み進めづらい感触なのだが、ヴォリュームが約1200ページ(ワオ!)くらいの大作。全体が4編に分かれていて、章毎に語り部が変わるので、どれが本当のことなのかが分からない、という、いわば『藪の中』(芥川龍之介)状態。これを、ずっと読んでは止まり、読んでは止まり、をしていたのだが、一念発起して、一気に読み終える。やれやれ。

 これでやっと、村上春樹の新作に、ものすごく遅ればせながらだが、取り掛かることができた。そして、この新作、まさに『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の世界であることに、静かな衝撃(まだ、序盤なので、この後どういう展開になるのかが楽しみだ)。秋の読書を楽しみたい。合掌。(TM)

2023/10/31

善福寺公園へ展示

 杉並区善福寺公園で開催される、野外芸術祭「トロールの森2023」に、今年も出展する運びとなり、いよいよ準備も佳境に。作品も完成したため、一旦、解体して会場へ搬出へ。

 今年は、例年のインスタレーションと比べて、規模がかなり大きな作品(ある意味建築)となり、学生たちも非常に苦労して、頑張った。さまざなプレッシャーもあったと思うけど、それもいい経験!

 公園での設置作業も終わり、芸術祭事務局の方々とパチリ。作品の様子は、会期スタートとともにお楽しみください。

 会期は11/3から3週間ほど。近くにお越しの際は、是非ご覧ください。



2023/10/08

アーチの森2023(復活)

 武蔵野大学の学園祭、摩耶祭が開催。

 今年度はいよいよ対面形式で全面的に解禁ということで、4年ぶりにキャンパス内に来場者で賑わう学園祭となる。

 コロナ前までは例年、木造仮設建築物(我々は「アーチ」と呼んでいる)を設計・制作していた訳だが、それもいよいよ再開という運びに。

 本当に久しぶりに、作品が人の手に触れることになって、本当によかった、というのが正直な感想。このつくっていく文化も途切れてしまったので、学生も、なかなか途中作業で悪戦苦闘していたが、無事にできあがってよかった。

 来場したいただいたみなさま、ありがとうございました。



2023/10/07

ダーティ53

 ものすごく(ほぼ5か月も!)ブログを更新しないでおり、長い時間が過ぎ去ってしまいました。すみません。

 いろいろとバタバタとしておりまして、という言い訳をしながら、そもそもSNSを一切やっていないので、このブログを更新しないと、一定数の方々に非常に心配をおかけしてしまう次第。申し訳ありませんが、元気にはしております。

 そして、そうこうしているうちに、私事で恐縮ですが、不肖、私めが53になりました。

 今年は、誕生日当日に、学生が覚えてくれて、サプライズに盛大に祝福をいただく。ありがとうございました。

 この歳になってくると、嬉しいか?と聞かれれば、もう微妙な感じになってきてしまっているが、まあ、お祝いいただくのは、本当に嬉しいものですよね。

 またひとつ歳をかさね、更に精進いたします。

 そして、溜まりに溜まったブログ記事を、時系列もランダムにUPしていきます(狼少年にならないように頑張ります)。懲りずにご覧ください。お楽しみに。(TM) 



2023/06/01

建築学会賞表彰式

 先日このブログでも記したとおり、日本建築学会賞(業績)を受賞し、その表彰式が開催され参加する。

 式自体は建築学会の総会のプログラムの中で行われるのだが、それに先立って記念撮影をするとのことで、受賞メンバーのみなさんと一堂に会し、式典にのぞむ。

 式後の懇親会では、他の受賞者の方々(京都大学の布野研の先輩の牧さん、後輩の魚谷さんがそれぞれ、論文と作品で受賞。おめでとうございます!)と、いろいろなお話をさせていただき、非常に刺激になった。

 このように対面での表彰式も3年ぶりということもあってか、会はすごく盛り上がって(いるように感じた)おり、いや、かなり元気をもらった感じがする。


式後は、チーム内で少し祝勝会をおこない、このプロジェクトに携わった10年余りを振り返りながら、いろいろな苦労話や、トリビア的な話題で盛り上がる。時間があまりなく一同名残おしい感じもありながら、帰路に就く。

あらためて、このような評価をいただき、感無量です。関係各位みなさま、ありがとうございました。

励みにするとともに、さらに精進してゆく所存です。(TM)

2023/05/24

世田美

 大学院の授業の一環で、施設見学へ。履修学生が見学する建築をセレクトしたのだが、世田谷美術館ということになった。

 師匠である、内井昭蔵先生の代表作にして、公園にある美術館としても、おそらく先駆的な建築ではないかと思う。

2 020年の「作品のない展示室」展以来の施設訪問になった訳だが、じっくりと観ていくと、やはり変わった美術館だなぁ、と改めて感じる。その土着的でいて装飾的な建築の質感は言わずもがなだが、展示室が連続していく施設構成と、それぞれの展示室のヴォリュームと形態がすべて変化があることが、他の美術館建築と空間体験に関して一線を画していると感じずにはいられない。今回の展示は、開口部を閉じて展示するコンテンツだったのだが、開かれた構成になると、より空間の魅力を感じることができる。

 改めて、現代にはできない建築なのだな、という思いとともに、見学会を終える。それにしても、この建築をセレクトした学生のセンスは渋いな。(TM

2023/05/15

最初のゼミ企画

 コロナの規制もほとんどなくなってきているので、今年度の大学の研究室の活動の幅もどんどん広げていけるようにしたい。とは言え、なかなかコロナ前のように戻すには時間がかかる。

 今年は、ゼミ生が全員順番に、いろいろと企画を立てて面白いプログラムを、企画&運営する、という「セミ企画」という名の活動をおこなうことにする。

 その1回目、ということで、武蔵野クリーンセンター・むさしのエコreゾートの見学会がおこなわれる。まあ、最初なので、鉄板の企画なのも、いいことにしよう。本当は、施設の広場でランチ・ピクニックをしてから、見学への流れだったが、生憎の雨模様のためピクニックは中止。どっちかと言うと、そっちの方が楽しみだったので、少し残念だが、致し方ない。今週末、一つ現地審査が開催されるので、改めて施設のいろいろな所に目を向けて、学生へもいろいろと観てもらう。

 さて、この「ゼミ企画」は、今年は全12回開催されます。また、ブログでも報告しますので、乞うご期待!ゼミ生にも、ぜひ面白い企画をして欲しい。(TM)

2023/05/08

さくらんぼの季節

 あっという間に時が過ぎ去り、連休も終わり、5月も半ばになってきた。またまたブログを更新できずにいる(すみません。狼少年になってますが、少しUPの頻度を上げる所存です)。

 大学のキャンパス内にある、さくらんぼの樹に、いい感じで実がついている。この季節は、毎日樹のまわりを歩いた際に、3粒くらいをいただいている。

 若干、甘酸っぱい食感が最高である。そして、さくらんぼの食べごろになると、そろそろ服装が長袖から半袖へと移ろっていく季節である。暦の上では立夏である。春分と夏至の丁度真ん中あたりで、これから日中の時間が長くなっていく。

 新年度は何かと慌ただしいが、こういう季節を感じる事柄が心を落ち着けてくれる。

 と、感じながら、元気に参りましょう。(TM)

2023/04/27

建築学会賞

 この度、この度、設計・デザイン監修に携わった「武蔵野クリーンセンター・むさしのエコreゾート整備事業」が、日本建築学会賞(業績)を受賞の運びとなりました。

2023年各賞受賞者 | 日本建築学会 (aij.or.jp)

  このような評価をいただき、感無量です。関係各位みなさま、ありがとうございました。

 励みにするとともに、さらに精進してゆく所存です。(TM)



2023/03/31

甲子園の春

 あっという間に今年度も終わる。ここ最近、世の中は、野球のWBCで盛り上がっていた。準決勝のメキシコ戦は、さすがに観戦していて、最後声を上げてしまうくらい、シビれる試合だった。

 そんな盛り上がりもある中、個人的な所要で、息子と二人で関西方面に出向き、丁度タイミングが合ったので、高校野球を観戦に甲子園球場に赴く。春の甲子園は、夏と違って何となくのんびりしていて、そのユルさが心地いい。日程が丁度、準々決勝に合い、大阪桐蔭の前田投手と、報徳学園の堀選手を生で観ることができた。

 このブログにも書いたことがあるが、かつて祖父母が甲子園に住んでいたこともあり、自分が丁度息子の年頃に、よく甲子園に観戦にきていた記憶が甦る。球場もだいぶ改修されて新しくなっているが、球場自体の持つ雰囲気と、空間全体の美しさは健在だ。やはり、日本一の野球場だなぁと思う。

 さて、新年度が始まる。元気に参りましょう。(TM)

2023/03/26

卒業と、雑感と

 先週の話になってしまったが、水谷研の院生4名と、学部17期生のゼミ生10名全員が卒業。今年は、コロナの規制も大分緩和されて、無事に卒業式は開催の運びに。

 コロナ前のように、学科全体で贈る言葉を話したり、ということは無くなってしまったが、学位記を取りに来た卒業生たちが研究室に集まってくる。そうしたら、ゼミ生からサプライズで、本当に素敵なプレゼントをいただく。これで1年の疲れも吹っ飛びますね。ありがとうございます。学生諸君は改めて、おめでとう。

 コロナに戦争に地震に、もう本当に大変な時代に過ごしてしているのだと思う。4月からの新しい世界での活躍を期待したい。


 今年の水谷研のキャッチフレーズ(毎年勝手に小生が定めている次第。。。)は、昨年度に引き続き、今の時代の感じを表現している。この言葉も、今の世の中や政治の流れをみていると、非常に別の大きな意味を持ってくる、と感じてしまう。もちろん、このフレーズにはニール・ヤングが鳴り響いている。それでは、卒業生へのはなむけに。


『戦前と戦後

僕たちは、どっちにいる?

“孤独な旅路”を越えていけ ! 』 (TM)

2023/03/10

みんなの森

 岐阜、愛知方面にゼミの活動で赴く。

 今更だが、「みんなの森 メディアコスモス」(設計:伊東豊雄)に赴く。いや、素晴らしい、と言うしかない建築だなぁ、と改めて感じる。

 図書館という施設ではあるが、施設内のさまざまな場所で、人々の活動の場や居場所があり、もう図書館という概念を超越している。非常にオープンに開かれており、爽快だ(施設で働く人たちも、ここまでオープンになってたら却って気持ちいいんじゃないかな、と勝手に思ってしまう)。

 朝一番に入館したので、最初は、各スペースが広すぎる感を若干感じてしまったのだが、昼時になると、いろいろなところから人々が施設内に訪れてきて、みんなで、施設内のいろいろな場所で昼ごはんをとる光景が見られ(ので、この広さにも意味があったのか!と納得)、壮観だった。

まさにパブリックな建築だなぁ、と感じながら、元気をもらう。そうです、元気にいきましょう。(TM)

2023/03/03

スパークスの家

 あっという間に3月に突入。いや、時が流れるのが早い。

 さて、また過去に遡り、昨年の話ですみません。その時ブログにあげられなかったので、改めて。武蔵野大学3年生の後期、設計演習(授業名:設計製図4)の第1課題の話し。この授業は、僕を含め5名の建築家の先生と一緒に運営する、スタジオ制の設計演習。水谷スタジオでは例年、第1課題ではスーパースター(ロック・アーティスト)の家シリーズの課題を提示する。もうこれも18年目(!)に突入。非常にコンセプチャルな課題で、学生にとっては非常に難しいと思うけど、頭をグルングルンさせ普段とはまったくちがう脳味噌の使い方をして思い切り頑張って欲しい、と例年思っている。

 今年度は『アネット』そして『スパークス・ブラザース』が日本でも上映された、ということで、「スパークス」を投下。例年の出題対象のバンドとは大きく異なり、ものすごくマイナーなバンド、というところが特徴か。当たり前のように学生世代の人たちにとっては、全く未知の存在の様子で、まずは知るということから始まるのである。という訳で、始めに『スパークス・ブラザース』の映画映像を観る訳である(時期的に『アネット』は間に合わなかった)。約3週間の短いスパンだが、履修者6名が課題に取り組み、66様のそれぞれ面白い提案が完成した。

 基本的に正解(らしきものも含む)がない課題なので、学生も困惑するが、講評する教員もいつもと違う所に頭をもっていかなければいけないので、講評会はいろいろな先生方の意見が聞けて、こちらとしても面白い。だが、作品のコンセプト、及び、そこからつくられる建築(らしきもの)の相関関係の妥当性は当然のごとく求められ、建築(らしきもの)自体の面白さ、及び、作品自体のメッセージ性に圧倒的な説得力がないと、つまらない、のである。そこは、若干パワー不足だったかな(学生は、みんな真面目なんだよなぁ、)と感じながらも、講評会は無事に終了。好きにやっていい課題、なのだが、それが難易度をあげているんだろうなぁ、と感じつつ、学生の奮起に期待したい。

 さて、例年通り、課題全文を下記に流します。よろしくどうぞ。(TM)

 

■課題:「Sparks のいえ」 (指導担当教員:水谷俊博)

「スーパースターの家」シリーズの第17弾の課題は、1970年代初頭のデビュー以来、約50年以上もの間、唯一無二の存在感を放ちつづけるバンド、スパークス。2022年日本上映の、レオス・カラックス[1]監督の映画『アネット』で原案・音楽を担当し、同年にエドガー・ライト[2]監督によるドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザース』が公開され、現在進行形で大きな注目を集め、上映館ではスパークスの音楽が鳴り響いていた。

スパークスはロン・メイル(key)とラッセル・メイル(vo)の兄弟を中心にL.A.で結成。二人はいくつかのバンドを経て、トッド・ラングレン[3]のプロデュースによりデビュー・アルバムを制作するが、1972年にスパークスと改名。ラッセルの派手なアクションと、アドルフ・ヒットラーを彷彿とさせる髭とヘア・スタイルのルックスで無表情にピアノを弾くロンのパフォーマンスのコントラストが話題になり、初期の名作『Kimono My House(74)が大ヒットし、10代のアイドル的な存在となる。1979年に『No.1 in Heaven[4]を発表し、その斬新なサウンドでロック・シーンに大きな影響を与えた。80年代後半~90年代の低迷期を経て、2000年代初期から再び音楽シーンの前線に復活し、独自の音楽を現在も展開(2022年現在で25作の作品を発表)している。

音楽的な特徴は、スタイルをつくっては壊し、また新しいものをうみ出すという行為の繰り返しである。グラム・ロック、ジャズ&クラシックの要素の取入れ、N.Y.パンクの再解釈、ウエストコースト・サウンドの再構築、エレクトロ・ポップの先駆的試行、ニュー・ウェイブ(シンセとバンドサウンドの融合)、クラシックとテクノの融合、バンド・ミュージックに回帰したポップサウンドのミクスチャー、映画サウンドトラックの制作、という流れで、2020年代に入った現在まで留まることなく変化を続けている、というその前進し続ける創作姿勢は不変である。

もともとこの課題のオリジナルは『わがスーパースターのたちのいえ』[5]というコンペの課題である。今年度は、その『スーパースター』という像をどうとらえられるかということを、ロック史上でも(かなり)希有な存在であるバンド、スパークスの存在を冠して考えてもらいたい。   

課題へ取り組む糸口は、数多ある。スパークスのイメージ、そのファッションも含めたパフォーマンスの独自性、作品数とともに幾多もある音楽の質の多様性、低迷期も含めたその遍歴、数々のアーティストへの影響[6]、或いは映画『アネット』との関係性[7]、ロック史が激動する70年代~80年代~2000年代~現在という時代性、二人のメンバーや楽曲群、歌詞等など。

課題は、例年通りの前置になってしまうが、様々な社会性や文化性を持ったバンド(今もバリバリ現役)、スパークスというバンドの住まいを設計することではない。音楽という世界を通して創造をしているスパークスの拠り所としての概念(→空間)はどのようなかたちで表現することができるのか、時間や空間を超えた構想力豊かな提案を期待している。


[1] フランスの映画監督。代表作に「ポンヌフの恋人」等があり、ヌーヴェルバーグ以降のフランス映画界に非常にな影響を与えている。

[2] イングランド出身の映画監督。代表作に「ショーン・オブ・ザ・デッド」,「ホット・ファズ」,「ベイビー・ドライバー」等

[3] 代表作「Something/Anything」等で知られるミュージシャン。XTC,ミートローフ,ニューヨーク・ドールズ等の多数のアーティストとしても知られ、ハーフネルソン(スパークス前のバンド)時代のスパークスを見出し、デビューのきっかけをつくった。

[4] スパークスの代表作の一つ。プロデュースはジョルジオ・モロダー。当時台頭してきた、ニュー・オーダーやデペッシュ・モード等のエレクトロ・ポップ・バンドに多大な影響を与えた。ミュージシャンのジャック・アントノフはスパークスを最初に聴いた時、「デペッシュ・モードみたいだ」と思い、後で「そうじゃない。デペッシュ・モードがスパークスに似ているんだ」と気づいたという逸話もある。

[5] 1975年の新建築の住宅設計競技の課題。『わがスーパースターのたちのいえ』。審査委員長は磯崎新。そしてその結果は。。。ほとんどが、海外の提案者が上位をしめた。磯崎はその審査評で「日本の建築教育の惨状を想う」というタイトルで、日本人提案のあまりの硬直化した状況を嘆いている。さらに相田武文が「犯されたい審査員を犯すこともできなかった応募者」という講評をおこなっている。今で言うところの「草食系」(ちょっと古い表現か?!)である日本人建築家の提案の惨状をみて「磯崎が新建築コンペにとどめを刺した」と評している。

[6]ベック,レッチリ,フランツ・フェルディナンド,デペッシュ・モード,ソニック・ユースなどが『スパークス・ブラザーズ』に登場。

[7] 映像ディレクター佐々木誠氏が「この2作は偶然かつ必然的に繋がっていて、(中略)「アネット」の違和感の答えは「スパークス・ブラザース」にあるし、「スパークス・ブラザース」の真のカタルシスは「アネット」にある。」と言及しており、まさにその通りだ。

2023/02/22

帰る途も つもりもない

 三鷹市美術ギャラリーで『合田佐和子展-帰る途もつもりもない-』展を開催中。大学と事務所の自転車移動途中で、少し遠回りしてみる。高知県立美術館からの巡回展のようだが、時折、こういった規模の大きくないマイナーな展示施設で、非常に良質なコンテンツの展覧会が開催されるので、面白い。

 個人的には、天井桟敷や状況劇場のビジュアル(ポスター)で少し知るくらいだったが、今回の展示が没後初めての大回顧展ということで、その充実した展示作品群のヴォリュームに圧倒される。ビル内ギャラリーなので、非常に限定された空間内に展示計画をしている苦労が窺えるのだが、そのコンディションだからこそ、観る側と作品の距離感がものすごく密なので鑑賞空間体験がいつもと違い面白い。個人的には非常に初期の(いわば、成熟する前の)『オブジェ人形』の作品群が目を引いた。日本の現代美術の第2世代(奈良美智や村上隆など)はここが源流かも、と勝手に妄想。

 それにしても、作品とともに作家自体の存在自体が、切り離せない、というある意味特殊な関係性が感じられる作品体験だった(とまたしても勝手に感想を持つ)。その粘着性がある関係は、現在のあらゆるものが分割(そして断絶)されていってしまう時代性の中で、いろいろと僕たちに考えさせられるのかもしれない。なぁ、と感じた。そこでは、この密で素っ気ない三鷹の展示空間が、非常にマッチしているのでは?!、と思う訳である。うむ。(TM)

2023/02/10

椅子の講評会2022(年度)

 例年そうだが、年度末なので様々な授業の講評会、発表会、審査会がおこなわれる。武蔵野大学で椅子をつくる授業をやっていて、その講評会を開催。講評会当日、今年は、なんと大雪に!ので、屋外でのプレゼンは雪の中おこなうということになった(写真は、その雪のん中でのプレゼンの様子。観る側と、観られる側で。)。そんな天候の中、今年度もゲスト講評者を招いての講評会を何とか無事に開催の運びとなる。木工作家の渡邊浩幸さん、映像ディレクターの土居京子さん、現代舞踏家の相原朋枝さん(オンライン参加)に参加頂き、それぞれの多様な視点から講評を頂く。僕以外はみなさん建築とは違った分野の方々なので、その講評も個人的にはとても楽しい。

 今年度は履修者14名で、それぞれ特徴のあるデザインの椅子ができあがった。今年度の授業を進めながら漠然とだが、若い人たち(学生)が、あまりに楽天的に無批判に、いろいろなことを受け入れてしまっている、という空気感を感じることができた。年々その傾向が強まっているように感じるが、何となく今年はそれが確実に実感できた。これは、あまりいいことではないのかもしれない。ということもあるので、例年、いろいろと学生が考えてくれるような課題の提示をしている。が、どうしたものか。。。ゲスト・クリティークの講師の方々も、同じような雰囲気をもたれたようで、「プレゼンが表層的になっている印象を受ける。」というようなコメントをされていた。やはり、愚直にじっくりと考えていかないと、作品における本質的なパワーは生まれないような気がする。それがデザインを考えていく上での醍醐味、ということだと思う。当たり前のはなしなのだが、効率ばかり目指していては、底が浅くて、たかが知れているのである。学生諸君には、そこに気づいて、殻を破って欲しいと思う。

 コロナ前であれば、終わった後は、履修学生全員を交えて盛大に打上会を開催する訳だが、今年もそれも叶わないため、なかなか完結した感が湧いてこないのも正直なところ。学生には充実感を持ってくれれば嬉しい限り。さて、怒涛の年度末が続いていくのです。はい。(TM)

■課題:

「戦前~戦中~戦後、という流れのなかで

新しい時代への歌を歌う

そんな時に座るイス」

 【課題概要】

2022 2 24 日、ロシア軍は 、ウクライナに侵攻。首都、キエフを含む複数の都市 でミサイル攻撃するなどの軍事作戦を開始し戦争が始まる。

毎日新聞のコラム『余禄』(2022/3/2 )に以下の記事が掲載された。 「「人類幸福の上で慶 賀に堪えない。各国は国家政策遂行上の手段としての戦争の放棄 を永遠に遵守し世界平和の実(じつ)を挙げることを心より希望する」。 2 次世界大 戦前のパリ不戦条約 発効にあたり、こんな談話を発表したのは他ならぬ 、当時の 日本の 浜口雄幸(はまぐち・おさち)首相だった 。その浜口は暗殺未遂にあって辞任、条約発 2 年後に軍部は満州事変を引き起こす。武力行使と威嚇(いかく)の禁止はその後全 世界で 5000 万人以上の死者を出した第二次世界大戦の惨禍を経てようやく国連憲章に 結実した……はずだった。」

コピーライターの糸井重里が、自身の HP サイト『ほぼ日』の巻頭コメント「今日のダーリン」の 欄で下記のことを書いている(2022/3/2 付)。「プーチンの仕掛けたウクライナへの侵攻がなかったら、 いまごろはコロナウイルスの問題を、たくさんの人びとが渋い顔して語っていたろう。(中略)。そし て、そのコロナの問題もなかったとしたら、(中略)受験生は新しい学校が決まったり、決まらなか ったり。卒業の話だとか、引っ越しのこと、就職のこと、うまくいってない仕事のこと、恋愛や失恋 のこと、それぞれに考えなきゃならないことを考えていたと思う。」

作家の中村文則は、『書斎のコラム』という連載で、以下を記している(2022/3/3 付)。 「ロシアの作家トルストイの小説「戦 争と平和」には、戦争が始まる時の人々の高揚と、 その後の残酷極まる実際の戦闘、その悲しみが描かれる。戦争は終わると和平条約があ るが、その結果で国が得たものと、失われた膨大な人の死が釣り合うのかという痛烈な 問いが投げかけられている。

ミュージシャン・俳優のピエール瀧が雑誌「テレビブロス」に連載していた自身のプ チトリップをまとめた書籍のタイトルは、『屁で空中ウクライナ』(太田出版、2001 年) という。なぜそのタイトルなのかは 書籍内に記載はない。

自身の音楽ユニット DCPRG のラストライブで「この 4 年間で、解放されたかね?それと も拘束されたかね?」と発した、ジャズミュージシャンの菊地成孔は、アルバム『戦前と戦後』リリ ースの際、「今の日本が戦前なのか戦後なのか? というとてもシンプルな問いが最初にあって、そ れをどうやって音楽で表現しようかなと思った。」(雑誌『Jazz JAPAN』(2014 4 月)より)と発言 している。

今に少し先駆けること 2021 9 月に『新しい時代への歌』(サラ・ピンスカー著、村山美雪訳 書房発行)が国内で刊行。まさに、テロ(戦争)とコロナ後の閉塞した社会像を描いた近未来 SF 品で、我々の近い将来の予言の書といっていいかもしれない。

 今の現状、そしてこれからの僕たちは、どうなっているのだろうか。いろいろと考えて欲しいと思 う。もちろん、僕たちがいろいろと考えたところで、どうなるものでもない、のかもしれないのだが、 やはり考えないといけないと思う。 そんなときに座るイス。 様々に考えを巡らしてみてください。魅力的なイスに出会えることを期待しています。

(水谷俊博)