2023/02/10

椅子の講評会2022(年度)

 例年そうだが、年度末なので様々な授業の講評会、発表会、審査会がおこなわれる。武蔵野大学で椅子をつくる授業をやっていて、その講評会を開催。講評会当日、今年は、なんと大雪に!ので、屋外でのプレゼンは雪の中おこなうということになった(写真は、その雪のん中でのプレゼンの様子。観る側と、観られる側で。)。そんな天候の中、今年度もゲスト講評者を招いての講評会を何とか無事に開催の運びとなる。木工作家の渡邊浩幸さん、映像ディレクターの土居京子さん、現代舞踏家の相原朋枝さん(オンライン参加)に参加頂き、それぞれの多様な視点から講評を頂く。僕以外はみなさん建築とは違った分野の方々なので、その講評も個人的にはとても楽しい。

 今年度は履修者14名で、それぞれ特徴のあるデザインの椅子ができあがった。今年度の授業を進めながら漠然とだが、若い人たち(学生)が、あまりに楽天的に無批判に、いろいろなことを受け入れてしまっている、という空気感を感じることができた。年々その傾向が強まっているように感じるが、何となく今年はそれが確実に実感できた。これは、あまりいいことではないのかもしれない。ということもあるので、例年、いろいろと学生が考えてくれるような課題の提示をしている。が、どうしたものか。。。ゲスト・クリティークの講師の方々も、同じような雰囲気をもたれたようで、「プレゼンが表層的になっている印象を受ける。」というようなコメントをされていた。やはり、愚直にじっくりと考えていかないと、作品における本質的なパワーは生まれないような気がする。それがデザインを考えていく上での醍醐味、ということだと思う。当たり前のはなしなのだが、効率ばかり目指していては、底が浅くて、たかが知れているのである。学生諸君には、そこに気づいて、殻を破って欲しいと思う。

 コロナ前であれば、終わった後は、履修学生全員を交えて盛大に打上会を開催する訳だが、今年もそれも叶わないため、なかなか完結した感が湧いてこないのも正直なところ。学生には充実感を持ってくれれば嬉しい限り。さて、怒涛の年度末が続いていくのです。はい。(TM)

■課題:

「戦前~戦中~戦後、という流れのなかで

新しい時代への歌を歌う

そんな時に座るイス」

 【課題概要】

2022 2 24 日、ロシア軍は 、ウクライナに侵攻。首都、キエフを含む複数の都市 でミサイル攻撃するなどの軍事作戦を開始し戦争が始まる。

毎日新聞のコラム『余禄』(2022/3/2 )に以下の記事が掲載された。 「「人類幸福の上で慶 賀に堪えない。各国は国家政策遂行上の手段としての戦争の放棄 を永遠に遵守し世界平和の実(じつ)を挙げることを心より希望する」。 2 次世界大 戦前のパリ不戦条約 発効にあたり、こんな談話を発表したのは他ならぬ 、当時の 日本の 浜口雄幸(はまぐち・おさち)首相だった 。その浜口は暗殺未遂にあって辞任、条約発 2 年後に軍部は満州事変を引き起こす。武力行使と威嚇(いかく)の禁止はその後全 世界で 5000 万人以上の死者を出した第二次世界大戦の惨禍を経てようやく国連憲章に 結実した……はずだった。」

コピーライターの糸井重里が、自身の HP サイト『ほぼ日』の巻頭コメント「今日のダーリン」の 欄で下記のことを書いている(2022/3/2 付)。「プーチンの仕掛けたウクライナへの侵攻がなかったら、 いまごろはコロナウイルスの問題を、たくさんの人びとが渋い顔して語っていたろう。(中略)。そし て、そのコロナの問題もなかったとしたら、(中略)受験生は新しい学校が決まったり、決まらなか ったり。卒業の話だとか、引っ越しのこと、就職のこと、うまくいってない仕事のこと、恋愛や失恋 のこと、それぞれに考えなきゃならないことを考えていたと思う。」

作家の中村文則は、『書斎のコラム』という連載で、以下を記している(2022/3/3 付)。 「ロシアの作家トルストイの小説「戦 争と平和」には、戦争が始まる時の人々の高揚と、 その後の残酷極まる実際の戦闘、その悲しみが描かれる。戦争は終わると和平条約があ るが、その結果で国が得たものと、失われた膨大な人の死が釣り合うのかという痛烈な 問いが投げかけられている。

ミュージシャン・俳優のピエール瀧が雑誌「テレビブロス」に連載していた自身のプ チトリップをまとめた書籍のタイトルは、『屁で空中ウクライナ』(太田出版、2001 年) という。なぜそのタイトルなのかは 書籍内に記載はない。

自身の音楽ユニット DCPRG のラストライブで「この 4 年間で、解放されたかね?それと も拘束されたかね?」と発した、ジャズミュージシャンの菊地成孔は、アルバム『戦前と戦後』リリ ースの際、「今の日本が戦前なのか戦後なのか? というとてもシンプルな問いが最初にあって、そ れをどうやって音楽で表現しようかなと思った。」(雑誌『Jazz JAPAN』(2014 4 月)より)と発言 している。

今に少し先駆けること 2021 9 月に『新しい時代への歌』(サラ・ピンスカー著、村山美雪訳 書房発行)が国内で刊行。まさに、テロ(戦争)とコロナ後の閉塞した社会像を描いた近未来 SF 品で、我々の近い将来の予言の書といっていいかもしれない。

 今の現状、そしてこれからの僕たちは、どうなっているのだろうか。いろいろと考えて欲しいと思 う。もちろん、僕たちがいろいろと考えたところで、どうなるものでもない、のかもしれないのだが、 やはり考えないといけないと思う。 そんなときに座るイス。 様々に考えを巡らしてみてください。魅力的なイスに出会えることを期待しています。

(水谷俊博)