2017/08/04

イデアとメタファーと


 村上春樹の新作長編、『騎士団長殺し』を読む。それほど自分としては前面に押し出している訳ではないが、村上春樹ファンを自負している身としては、新作の発表(しかも長編)は興奮以外の何物でもない。一気に読んでしまいたいところをグッと押さえつつ、極力じっくりと読む。『騎士団長殺し』、個人的にはなかなか良いと思う。いつも感じるが、作品のストラクチャーがしっかりとしていて、更にディテールの構成の妙(ズレのようなもの)が、村上春樹の世界の最大の魅力だと思う。本作は、それが非常に分かりやすい。後、一応今の所、2部(2巻)構成になっているが、3部(以降)があっても全然不思議でない感じも満々である。
 さて、村上春樹の作品となると、話中にさまざまな音楽が挿し込まれるのも楽しみの一つだが(今回は、もちろんモーツアルトの『ドン・ジョバンニ』とシュトラウス(リヒャルトの方)の『薔薇の騎士』が大きな位置を占めている)、物語の終盤で、主人公がブルース・スプリングスティーンのアルバム『リバー』を聴くシーンが個人的には非常に心に残る。思わず読みながら、棚からCDを出してきて聴いてしまった。そして、読み進めていくと、「CDでなくアナログLPで聴くべし」という内容が書かれていたので、少し申し訳ない気分になる。LPで持っている中で一番時代的に近そうなのが、『Born To Run(明日なき暴走)』なので、それを聴くことにする(まあ、音楽的にはちょっと(というか大分)違うものだけど、ブルース・ブルーススプリングスティーンのスピリッツは感じることができる)。こういう感じが至福の時だ。最近、軟弱にも、カルヴィン・ハリスの新譜なぞを聴いていたが、反省するばかりである。
 文中、内容が少し曖昧だが(アルバム『リバー』を聴くときのくだりである、念のため。)、「A面最後の『インディペンス・デイ』を聴き終わり、レコードを裏返して、B面一発目の『ハングリー・ハート』を聴く一連の行為は、そうあるべきで、それ以外のことは考えられない」というような文章があり、深くうなづく。
あまりに、その通りやで、と納得するしかない。本を広げながら、やや呆然と「ドライブ・オール・ナイト」(『リバー』より)を聴く。合掌。(TM)

2017/07/31

卒業設計作品集

 雑誌『近代建築』の別冊で、昨年度の卒業設計作品特集号が発行され送られてくる。毎年恒例で刊行されており、全国の各大学の卒業設計作品が掲載(大学の推薦による)されている。
 武蔵野大学では最優秀作品を掲載する流れになっており、昨年度は水谷研11期生のミスズが見事最優秀、という訳で掲載されている。頁内に推薦者の言葉として、推薦文を寄稿している次第。関係者以外は(多分)読まないと思うので、以下に流します。と、言っているうちに今年度の前期は終わりかけてきているのである。時間の経過は本当に早い。(TM)

■推薦の言葉
“いつか死ぬ。いつか絶対死ぬ。死んだ後も名を残すなんて。欲のかきすぎだ。”は、ロック・バンド、真心ブラザースの代表作『人間はもう終わりだ』のサビの有名な一節だ。高橋美鈴さんのこの作品をみて、真心のこの曲をどうしても連想してしまった。敷地は近傍に広大に広がる住宅地を両サイドに睨みながら、小高くそびえるふたつの連なる丘陵地を選定している。この2つの丘を結ぶかたちで、森の中、道なき道をつくるように葬祭場を設計する提案である。設計の手法としては、大きさ6004,000mmのさまざまな大きさの立方体のヴォリューム(実はこのオブジェクトが墓標となっている)が散策道のように緩やかに蛇行しながら、ランダムに連続するというシンプルな設計手法で構成されている。全国の卒業設計で評価されがちな、キャッチーなコンセプト&ルックが目を引く表現の類の作品(それはそれで良いとは思うのだけど、、、)ではない。学内の審査会でも、立体ヴォリュームのスケール感や長大な地下空間の必要性等に関して議論が噴出(「大き過ぎる」、「要らない」、等)したが、「住宅地という『生』を背景として、人間に必ず訪れる時間(『死』)を絶えず(そして静かに)訴えかける場所はとても大切だ。」という本人自身の思いが力強く表現されているところが最終的に評価された。近年見られる、優等生的な“社会的正義をバックにした解決策型”の案にはめ込めずに、自分の目指すべき姿を実直に追及することの美しさが心を打つ作品だ。まさに「死んだ後も名を残すなんて、欲のかきすぎだ」、と訴えているかのように。合掌。
(水谷俊博/武蔵野大学)

2017/07/26

卒業研究発表会2017

武蔵野大学4年生の卒業研究の発表会。4年生にとっては前期の集大成となる。50名弱の全ての学生の発表会なので、かなりの長丁場になる。
 今年は朝9時スタートで、終了したのは夕刻前。そこから審査、及び再提出者の発表までかかる。学生諸君はお疲れさまでした。学生も大変だが、こっちもかなりクタクタになる。
 水谷研究室は総勢9名。再提出の試練が待ち受けている。頑張って最後まで頑張りましょう。それにしても、年々、学生の日本語力(文章を書く力)が低下しているような気がして、その点をチェックすることにかなりのエネルギーを費やしている事実を痛感する。世間は「グローバル化」を声高に提唱している訳だが、「その前にすべきことあるんちゃうの。。」、というのが正直なところ。学生へのアドバイスとしては、「なんでもいいから長編小説を読みなさい!」ということなのであるが、夏休みの宿題に読書感想文を課そうかなぁ(笑)、と半笑いでありながら、半分マジに考えてみるのでありました。
 吉祥寺の居酒屋で打ち上げ。
 ある意味、学生生活最後の学術論文の制作もこれで一段落。今後の糧にして欲しい。さて、後期の卒業設計&論文への展開が楽しみだ。(TM)

2017/07/22

トリノへ思いを馳せながら

 だいぶ以前にイタリアのトリノに関して文章を書く機会があり(世界各国の都市を紹介する書籍の企画で、その中のほんの一部分の項目を執筆させていただいた)、その企画が立ち消えそうになっていた模様だが、また再び動き出しそうだ、という案内(一報)があった。実はトリノは学生時代に一時期暮らしていた、ということで自分にとっては本当に思い入れのある都市である。
イタリアは日本人にとっては観光地として圧倒的に人気があるスポットな訳だが、なぜか、トリノに行く日本人はほぼ皆無で、おそらく日本人にとってはイタリアの都市の中では印象がとても薄い(冬季オリンピックがあったのと、フィアットのお膝元、そしてユベントスの本拠地、というイメージくらいかなぁ)都市な訳である。が、実は、イタリアではローマに次ぐバロック都市で、そういう訳でとても素晴らしく圧倒的に美しい都市だということはあまり認知されていない。はっきり言って、ミラノなんかつまらない大都市で、電車で1時間くらい離れたトリノの方が文化的にも芳醇な都市だと思えてしまう。
 後、デ・キリコの絵はトリノの都市像がベースだということも知る人ぞ知る事実である。その都市紹介の本では、トリノの都市としての起源から、そのデ・キリコくらいまでの時代背景と都市の変遷プロセスを紹介しながら、トリノの不思議な魅力に関して考察しているので、今後うまく企画が進めば改めてこのブログでも紹介します。
 さて、トリノに学生時代、一時期暮らしていた訳だが、日本に帰国する際に、現地で交流のできた学生達(トリノ工科大学の)からお土産としてTシャツをプレゼントしてもらった。イタリアの偉大な俳優、トト(アントニオ・デ・クルティス)をモチーフにしたデザインのもので、想い出の品、ということで大切に着続けていた。かれこれ25年!さすがに、かなりヨレヨレになってしまい、さすがにもう着れないかなぁ、という感じになってしまったので、断腸の思いで処分することに。丁度、トリノに関して執筆した企画の動きと重なったために、感じ入ってしまう。
 実は、そのトリノに行って(暮らして)以来、イタリアの地に足を下ろしていない(当時はいつでも行けると思っていたのに!)。
 いやはや。そろそろイタリア、そしてトリノに猛烈に行きたくなってきた。そう、25年ぶりに。時はあまりに早く流れる。(TM)

2017/07/08

環は閉じているか?

 子供たちの夏の納涼会があり、景品で発光ブレスレットのおもちゃを持って帰ってきた。子供たちが眠りについた後、何気なくそれをイジっていると、分解して連結できることが分かり大きな輪にしてみた。意外に幻想的に綺麗で、若干ウットリする。大きな輪が閉じている感じがいい。
 それにしても、非常に抽象的な話だが、若いころは輪が閉じていると「いい!」と思っていたような気がするが、年月を経てみると輪(環?かな??)は閉じてない方が、何となく心地よくなってきた。漠然と。。。
というような気持で、明日は都議会選挙。この盛り上がらない気分は何なんだ!と思いながら。やはり環は閉じてない方がいいような。。。と、オチも何もない話ですみません。はい。(TM)

2017/07/02

太田市美術館図書館

 先日の武蔵野クリーンセンターに引き続き、布野修司先生にお誘いを受けて(本ブログ2017/6/16を参照ください)、太田市美術館・図書館の見学会に参加する(ちなみに雑誌『新建築』の同じ号(20175月号)に武蔵野クリーンセンターも掲載されているので、勝手ながら縁を感じているのであります)。週末ということもあり、無理を言って、子供(家族)連れで参加という運びに。
 設計者の平田晃久さんは大学の同級生で、大学を卒業して以来の対面。スタッフの方を含め、施設内を丁寧に案内していただく。本当に、ありがとうございました。
 雑誌で見ていたよりも施設の様子は圧倒的によくて、図書館の空間が文字通り螺旋をえがくように連続していくなかで、さまざまな居場所や抜けが生まれていて、施設全体が丘の中にいるような感覚を生じさせているように思えた。子供たちも走り回っていて、純粋に楽しめる空間なんだ、と改めて実感する。参加者のみなさんとも交流ができ充実した見学会。前橋と同様、太田もおそらく市街地の衰退の雰囲気が感じられ、地方都市の再生ということに対して、建築がどのような役割を果たせるか、というテーマを改めて考えさせられた。(TM)

2017/06/24

水の三部作展

移動の途中にポッと時間の空白ができる。場所は、銀座。
という訳で(ってどういう訳で?、ってつっこまないでくださいね)、銀座メゾンエルメスへちょっと立ち寄る。
アブラハム・クルズヴィエイガス(不勉強ながら初めて知る)の展示を開催中。メゾンエルメスはモダンアート専門の展示ギャラリー(展示スペースそのものの設定および構成がそうなので)ということで、いつも階下のエルメスのブティックとはまったく正反対の雰囲気(ここでは、モダンアートのザックバラン過ぎる作品のテイストのことを指してます)を醸し出しているのが、非常にエキセントリックな感じがして心地よい。
しかも別動線でアプローチするという設定ではないので、展示(無料)を観たい人は、店の中を通ってアクセスしなければ行けないので、その何となく申し訳なさ気な感じを漂わせながら革張りのエレベーターへとシズシズと向かい、階上の展示スペースへ到達する一連のシークエンスの体感が、むずむず感があり、そこはかとなく面白いのである。銀座のホッと一息な一時でありました。(TM)