2021/03/31

焔 (&卒業雑感含む)

 新型ウィルスの状況は変わらず。そして年度が終わり、変わる。

 この区切りに、U2の登場である。4作目『焔』(原題、『The Unforgettable Fire』)を。U2はこの1作後の『ヨシュア・ツリー』が最大に有名だが、個人的には圧倒的にこの『焔』だ(後、91年の『アクトン・ベイビー』が双璧)。このアルバムでU2の音楽性は大転換を迎え、ロック史にも(それ程はきりと目に見えるかたちではなかったが)影響を与えたと、個人的には感じる。ここはA1曲目の「A Sort Of Homecoming」で、新年度に熱き心で臨むことにしよう。

 さて、年度末のまとめの一環なのだが、大学では年度毎に学生の作品集を制作しており、今年度も巻頭あいさつのテキストを書くことになった。この文章を書くのも、ひとまず今年度で一区切りになる。だから、という訳ではないが、例年とまったく違うテイストで書いてみる。2020年度を振り返るということで、拙文を以下に掲載させていただきます。(かなり長いのでご容赦を!)

さて、コロナの影響でどうなるか全く状況が読めないが、いよいよ来年度へ向けて始動しだす。(TM)


■武蔵野大学卒業研究記録集2020 「はじめに」

2021118日。研究室ゼミ生のモモ(この冊子の編集委員をしている)から、この、「はじめに」の文章の執筆依頼があったのだが、その2日後に第164回芥川賞の発表があり、宇佐見りん著『推し、燃ゆ』が受賞した。新鋭20歳(言うまでもないが、卒業する皆さんよりも若い)の受賞の知らせが駆け巡っている。まさにニューヒロインの誕生である。

2021128日。外は雨模様。この、「はじめに」の文章をここ数年書いているが、それも一旦、今回で終わる。多分、ほとんどの人が読まないのだが、定型にはまった、おしつけがましい教育的なことや、啓蒙的なことや、激励的なこと、は書かないぞ、と静かに思ってみたりする。昨年は、ビリー・アイリッシュがグラミー賞を独占した話を書いた。若い世代の新星が誕生する話が2年連続するかたちだな、と思い出してみる。気温がとても寒いせいか、文章が進まない。ので、ノートPCを閉じて、机の上のGODIVAのチョコレートを食べながら雨を眺める。

 1965725日、ロック史上最大級の、今でいうところの炎上が起こる。いわば、燃ゆの状況。ニューポート・フォーク・フェスティバルにボブ・ディランが大トリで出演する訳だが、当時プロテストソングのシンボル的存在であった彼が、ロック的な方向に舵を切り、手にエレキギターを持ってステージに現れたのを見て、聴衆が壮絶なブーイングを起こしたのである。いったん引っ込んだディランが再びステージに上がり、『Its All Over Now,Baby Blue(すべては終わった)』を涙ながらに唄ったのは、今となっては伝説になっている。

 199421日。沖縄宮古島キャンプの初日、オリックス・ブルーウェイブの新井宏昌コーチ(当時)は、ある選手のバッティングをみて仰天する。「あんな風に打つ人を、今まで見たことがない。」と。大きく動くバッティングフォームを駄目だと言う一軍コーチもいたが、20歳の彼は自分の主張を曲げなかった。そして、自分にとって必要な練習のアドバイスには聞く耳をもち、それには毎日毎日取り組んだ。そして、世界最高峰の選手への階段を、この後一気に上っていくことになる。鈴木一郎改め、イチローが誕生する。

 2021122日。NHKラジオ。小説家の高橋源一が、自身がMCを務める番組に、宇佐見りんをゲストに招いた放送で、ニューポート・フェスでのボブ・ディランの話が番組冒頭で紹介される。自分を成長させてくれないファンからは決別する、という意思表明をし、ステージを降りた彼。そして、そこからボブ・ディランの長い旅が始まるのである。その話を聞きながら、イチローが鮮烈に世に出ていった経緯を想い起こす。その1年後、1995919日。震災後の神戸の地に、11年ぶりの優勝をもたらす。そして、それはイチローのプロ野球人生の旅の始まりだった。

 1966517日。イギリス、マンチェスターでのコンサート。ボブ・ディランは、このイギリス国内のツアー中、全ての会場で、エレキギターとバンド編成の演奏でのぞんでいた。そのパフォーマンスに対して、怒涛のブーイングや観客の途中退場が、各地でみられていた。マーティン・スコセッシ監督の映画、『No Direction Home(ノー・ディレクション・ホーム)』のラストシーン。客席から「ユダ!」と叫ばれる中、『ライク・ア・ローリング・ストーンズ』をプレイ。プレイする直前にディランが、バックを務めるロビー・ロバートソンを含めたバンドのメンバーにこの言葉を放つ。「Play it ,Fucking Loud!(ガンガンにいこうぜ!)」。何かへ立ち向かうということがどんなことなのか、それはどのような決意でのぞまなければならないのか、ということを伝える寓意的なシーンである。

 202121日。この「はじめに」、の文章を、モモにメイル送信。 「モモへ。「はじめに」の文章書きました。いや~、締切遅れてしまい、ごめ~ん。新型ウィルスの状況も、なかなかなので、編集作業も大変だろうけど、がんばって!この文章書きながら、四畳半神話体系の話をまた聞きたくなってしまったよ。ちなみに、この文章のコンセプトって何?って聞かないで(笑)。まだまだ寒いけど、元気にいきましょう。最後にこの言葉を記して、La Finとしたいと思います。                 『タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きている資格はない、You Rock My World ! 』」               iPhoneから送信


202123。事務所にて、モモに送った文章が、あれでよかったのかぁ?、と思いながら、客観的な意見も聞きたく、スタッフのトモトモ(20代半ば)に読んでもらう。

「ところで、読んだ感想どう?」

「う~ん、、この最後のiPhoneから送信って文字が残ってて余計な感じで~す。」

「え~!、そこかよぉ!ちなみに、それはワザと書いてて、ガチなメイル送信文じゃないんだけど。まあ、演出ってやつだな。まあ、しゃあないか。肝心な内容はどうよ?」

 「う~~~ん。。。。。。。。。響きました。。。心に(笑)。」

 「あはははははは!マジかよ~?(笑)」

 「本当(笑)。うふふふふふふ。」

 事務所の窓から、正面の松籟公園の緑が陽の光でキラキラと輝いている。毎日が今日みたいに街中キラキラしているんじゃないか、と思うと、ステキじゃありませんか?公園からは元気に遊びまわる子供たちの声が聴こえている。事務所の窓際にある時計が15:34をさしている。スピーカーからは、アイク・アンド・ティナ・ターナーの  『リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ』が流れている。

202123 PM15:51

(本稿は部分的にフィクションを過分に含んでいることを付しておきます。そして、ティナの歌声は響いています。)                      (水谷俊博)

2021/03/26

フリー

 新型ウィルスの状況は変わらず。しかし、緊急事態宣言は解除された。

 武蔵野大学の河津優司先生が、今年度で退官される。大学の建築デザイン学科の礎を築かれた、といっても過言ではなく、しかしこの最中なので、盛大に送別の会等を開催することが叶わず、といった状況だった。そんな中、河津先生ご出身の早稲田大学の歴史研で河津先生の最終講義を開催する、という情報を武蔵野大学の非常勤講師でお世話になっている建築家の大塚聡さんから聞き、その企画に部外者ながら参加させていただくことになる(大塚先生ありがとうございました)。

 早稲田大学の中川武先生が発起人となり、河津先生の講義、そして中川先生との対談、というプログラムだった。講義を拝聴しながら、建築史の奥深さを改めて痛感し、自分の研究活動に関して考えさせられた。一連のプログラムが終わった後、懇談会となり、何とそこにも参加させていただき、中川先生、河津先生とも、いろいろとお話をさせていただいく。いや濃密な午後でした。河津先生、改めて、そして僭越ながら、おつかれさまでした。

 さて、何をピックアップしようか、と迷ったが、ここはフリーの2作目、『フリー』を。フリーといえばこの1作後の『ファイヤー&ウォーター』が有名だが、何といてもこの2ndがいい。フリーはブルースを独自のロック的な(かつブリティッシュ流な)解釈によりオリジナリティ高い楽曲をうみだしたバンドと言われているが、このアルバムは、その魅力が炸裂している。アンディ・フレーザーのベースがグイグイ引っ張り、そこに響くポール・ロジャースのヴォーカルがうみだす、骨太で実験的な音をじっくりと聴かせる。ここはA5曲目の「Mouthfull of Glass」を、ゆったりと聴く。美しくて渋いのである。(TM)

2021/03/17

プレッシャー・ドロップ

 新型ウィルスの状況は変わらず。武蔵野大学の水谷研15期生のゼミ生12名全員が卒業。

 新型コロナの影響で卒業式は限定的(&謝恩会も中止)になったが、学位記を取りに来た卒業生たちが集まってきて、素敵なプレゼントをいただく。ありがとうございます。

 学生諸君は改めて、卒業おめでとう。まだまだ新型ウィルスの状況も大変だと思うけど、4月からの新しい世界での活躍を期待したい。

 さて、卒業生へのはなむけの楽曲ということで、久しぶりに、スーツ&ネクタイ、なので、ロバート・パーマーを。2ndの『プレッシャー・ドロップ』。ロバート・パーマーのアルバムの中で、もしかしたら一番地味な盤かもしれないが、個人的にはこれが好き。ソウルミュージックとルーツ・ロックの融合、というのがロバート・パーマーの特徴とされているが、この時期は、力強くて、いい意味でのラフさが満載である。この後、5作目(『Secrets:これもいい盤)あたりから洗練されていき大ブレークの80年代に突入していくのだが、その前の時代の魅力が何ともいい、のである。そして、全裸の女性の後姿を背景の点景にした、アルバムジャケットも秀逸。ここはB面最後4曲目の「Which of Us Is the Fool」を。“You can’t win,if you can’t loose”前を向いていきましょう!(TM)

2021/03/11

ソウル・フード

 新型ウィルスの状況は変わらず。数日前に、緊急事態宣言が延期(ひとまず2週間)になる。まあ、この状況では仕方ない。が、この2週間後には、状況が良くなっている気配がまったくない。街中はすでに人で溢れかえっているし。

 そんなさなか、次年度の研究室所属の面談を開催。今年度はこのような状況なので、三密対策をしたうえで、115分以内の1日限定の面談にする。終日面談をおこなっていくと、さすがに疲れも半端ない。更に、対策に配慮しなければいけないので、難易度が「半端ないっす」という感じである。いやはや。

 疲れを癒す、ということもあり、メイシオ・パーカーの最新アルバム『Soul Food -Cooking With Maceo』を聴く。言わずと知れた、JBバンド、Pファンクでの経歴を持つ、サックス・プレーヤーの2020年の新譜。昨年中に手に入れられなかったのだが、年明け早々に手元に届き、愛聴している。基本的にカヴァー集になっており、ニューオリンズ・サウンドとファンクの融合感が心地いい。ここは、B面最後、4曲目の「The Other Side of the Pillow」を。何とプリンスの楽曲(この曲の存在を知らなかったけど)。新たなゼミ生も決まり、ソロリソロリと新年度へ向かっていくのである。(TM)

2021/03/05

スウーン

 新型ウィルスの状況は変わらず。オリンピック関係が、男女差別につながるような某長老政治家の発言でにわかに慌ただしくなっている。そもそもがダメな訳だが、これが公で発言されている事実はあまりに愚かすぎて、愕然としてしまう。で、オリンピック、本当にやるんでしょうか?論です。そろそろ、真剣に決定すべき時期に来ているような気がするが、今のところ、止めようという気配はない。ということで、ずっと漂っている、嫌な空気感は、続いているのである。

 そういう時は、唯一無二の音楽を聴くのがいい。80年代半ばから活動しているが、大ヒット曲がないのと、音楽性がどのジャンルに属しているのかが明確でないので、ある意味、忘却されてしまう、という本当に稀有なバンド(というのは個人的な見解だけど)、その名もプリファブ・スプラウト。名盤がたくさんあるが、ここはあえてデビュー・アルバム『Swoon』を。A面最後の5曲目は、至上の名曲「Cruel」。ここで、文字通り気絶しそうになる。そして“Paa ,paa paa paa paa,Pa”と口ずさむ、のである。(TM)