2023/03/31

甲子園の春

 あっという間に今年度も終わる。ここ最近、世の中は、野球のWBCで盛り上がっていた。準決勝のメキシコ戦は、さすがに観戦していて、最後声を上げてしまうくらい、シビれる試合だった。

 そんな盛り上がりもある中、個人的な所要で、息子と二人で関西方面に出向き、丁度タイミングが合ったので、高校野球を観戦に甲子園球場に赴く。春の甲子園は、夏と違って何となくのんびりしていて、そのユルさが心地いい。日程が丁度、準々決勝に合い、大阪桐蔭の前田投手と、報徳学園の堀選手を生で観ることができた。

 このブログにも書いたことがあるが、かつて祖父母が甲子園に住んでいたこともあり、自分が丁度息子の年頃に、よく甲子園に観戦にきていた記憶が甦る。球場もだいぶ改修されて新しくなっているが、球場自体の持つ雰囲気と、空間全体の美しさは健在だ。やはり、日本一の野球場だなぁと思う。

 さて、新年度が始まる。元気に参りましょう。(TM)

2023/03/26

卒業と、雑感と

 先週の話になってしまったが、水谷研の院生4名と、学部17期生のゼミ生10名全員が卒業。今年は、コロナの規制も大分緩和されて、無事に卒業式は開催の運びに。

 コロナ前のように、学科全体で贈る言葉を話したり、ということは無くなってしまったが、学位記を取りに来た卒業生たちが研究室に集まってくる。そうしたら、ゼミ生からサプライズで、本当に素敵なプレゼントをいただく。これで1年の疲れも吹っ飛びますね。ありがとうございます。学生諸君は改めて、おめでとう。

 コロナに戦争に地震に、もう本当に大変な時代に過ごしてしているのだと思う。4月からの新しい世界での活躍を期待したい。


 今年の水谷研のキャッチフレーズ(毎年勝手に小生が定めている次第。。。)は、昨年度に引き続き、今の時代の感じを表現している。この言葉も、今の世の中や政治の流れをみていると、非常に別の大きな意味を持ってくる、と感じてしまう。もちろん、このフレーズにはニール・ヤングが鳴り響いている。それでは、卒業生へのはなむけに。


『戦前と戦後

僕たちは、どっちにいる?

“孤独な旅路”を越えていけ ! 』 (TM)

2023/03/10

みんなの森

 岐阜、愛知方面にゼミの活動で赴く。

 今更だが、「みんなの森 メディアコスモス」(設計:伊東豊雄)に赴く。いや、素晴らしい、と言うしかない建築だなぁ、と改めて感じる。

 図書館という施設ではあるが、施設内のさまざまな場所で、人々の活動の場や居場所があり、もう図書館という概念を超越している。非常にオープンに開かれており、爽快だ(施設で働く人たちも、ここまでオープンになってたら却って気持ちいいんじゃないかな、と勝手に思ってしまう)。

 朝一番に入館したので、最初は、各スペースが広すぎる感を若干感じてしまったのだが、昼時になると、いろいろなところから人々が施設内に訪れてきて、みんなで、施設内のいろいろな場所で昼ごはんをとる光景が見られ(ので、この広さにも意味があったのか!と納得)、壮観だった。

まさにパブリックな建築だなぁ、と感じながら、元気をもらう。そうです、元気にいきましょう。(TM)

2023/03/03

スパークスの家

 あっという間に3月に突入。いや、時が流れるのが早い。

 さて、また過去に遡り、昨年の話ですみません。その時ブログにあげられなかったので、改めて。武蔵野大学3年生の後期、設計演習(授業名:設計製図4)の第1課題の話し。この授業は、僕を含め5名の建築家の先生と一緒に運営する、スタジオ制の設計演習。水谷スタジオでは例年、第1課題ではスーパースター(ロック・アーティスト)の家シリーズの課題を提示する。もうこれも18年目(!)に突入。非常にコンセプチャルな課題で、学生にとっては非常に難しいと思うけど、頭をグルングルンさせ普段とはまったくちがう脳味噌の使い方をして思い切り頑張って欲しい、と例年思っている。

 今年度は『アネット』そして『スパークス・ブラザース』が日本でも上映された、ということで、「スパークス」を投下。例年の出題対象のバンドとは大きく異なり、ものすごくマイナーなバンド、というところが特徴か。当たり前のように学生世代の人たちにとっては、全く未知の存在の様子で、まずは知るということから始まるのである。という訳で、始めに『スパークス・ブラザース』の映画映像を観る訳である(時期的に『アネット』は間に合わなかった)。約3週間の短いスパンだが、履修者6名が課題に取り組み、66様のそれぞれ面白い提案が完成した。

 基本的に正解(らしきものも含む)がない課題なので、学生も困惑するが、講評する教員もいつもと違う所に頭をもっていかなければいけないので、講評会はいろいろな先生方の意見が聞けて、こちらとしても面白い。だが、作品のコンセプト、及び、そこからつくられる建築(らしきもの)の相関関係の妥当性は当然のごとく求められ、建築(らしきもの)自体の面白さ、及び、作品自体のメッセージ性に圧倒的な説得力がないと、つまらない、のである。そこは、若干パワー不足だったかな(学生は、みんな真面目なんだよなぁ、)と感じながらも、講評会は無事に終了。好きにやっていい課題、なのだが、それが難易度をあげているんだろうなぁ、と感じつつ、学生の奮起に期待したい。

 さて、例年通り、課題全文を下記に流します。よろしくどうぞ。(TM)

 

■課題:「Sparks のいえ」 (指導担当教員:水谷俊博)

「スーパースターの家」シリーズの第17弾の課題は、1970年代初頭のデビュー以来、約50年以上もの間、唯一無二の存在感を放ちつづけるバンド、スパークス。2022年日本上映の、レオス・カラックス[1]監督の映画『アネット』で原案・音楽を担当し、同年にエドガー・ライト[2]監督によるドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザース』が公開され、現在進行形で大きな注目を集め、上映館ではスパークスの音楽が鳴り響いていた。

スパークスはロン・メイル(key)とラッセル・メイル(vo)の兄弟を中心にL.A.で結成。二人はいくつかのバンドを経て、トッド・ラングレン[3]のプロデュースによりデビュー・アルバムを制作するが、1972年にスパークスと改名。ラッセルの派手なアクションと、アドルフ・ヒットラーを彷彿とさせる髭とヘア・スタイルのルックスで無表情にピアノを弾くロンのパフォーマンスのコントラストが話題になり、初期の名作『Kimono My House(74)が大ヒットし、10代のアイドル的な存在となる。1979年に『No.1 in Heaven[4]を発表し、その斬新なサウンドでロック・シーンに大きな影響を与えた。80年代後半~90年代の低迷期を経て、2000年代初期から再び音楽シーンの前線に復活し、独自の音楽を現在も展開(2022年現在で25作の作品を発表)している。

音楽的な特徴は、スタイルをつくっては壊し、また新しいものをうみ出すという行為の繰り返しである。グラム・ロック、ジャズ&クラシックの要素の取入れ、N.Y.パンクの再解釈、ウエストコースト・サウンドの再構築、エレクトロ・ポップの先駆的試行、ニュー・ウェイブ(シンセとバンドサウンドの融合)、クラシックとテクノの融合、バンド・ミュージックに回帰したポップサウンドのミクスチャー、映画サウンドトラックの制作、という流れで、2020年代に入った現在まで留まることなく変化を続けている、というその前進し続ける創作姿勢は不変である。

もともとこの課題のオリジナルは『わがスーパースターのたちのいえ』[5]というコンペの課題である。今年度は、その『スーパースター』という像をどうとらえられるかということを、ロック史上でも(かなり)希有な存在であるバンド、スパークスの存在を冠して考えてもらいたい。   

課題へ取り組む糸口は、数多ある。スパークスのイメージ、そのファッションも含めたパフォーマンスの独自性、作品数とともに幾多もある音楽の質の多様性、低迷期も含めたその遍歴、数々のアーティストへの影響[6]、或いは映画『アネット』との関係性[7]、ロック史が激動する70年代~80年代~2000年代~現在という時代性、二人のメンバーや楽曲群、歌詞等など。

課題は、例年通りの前置になってしまうが、様々な社会性や文化性を持ったバンド(今もバリバリ現役)、スパークスというバンドの住まいを設計することではない。音楽という世界を通して創造をしているスパークスの拠り所としての概念(→空間)はどのようなかたちで表現することができるのか、時間や空間を超えた構想力豊かな提案を期待している。


[1] フランスの映画監督。代表作に「ポンヌフの恋人」等があり、ヌーヴェルバーグ以降のフランス映画界に非常にな影響を与えている。

[2] イングランド出身の映画監督。代表作に「ショーン・オブ・ザ・デッド」,「ホット・ファズ」,「ベイビー・ドライバー」等

[3] 代表作「Something/Anything」等で知られるミュージシャン。XTC,ミートローフ,ニューヨーク・ドールズ等の多数のアーティストとしても知られ、ハーフネルソン(スパークス前のバンド)時代のスパークスを見出し、デビューのきっかけをつくった。

[4] スパークスの代表作の一つ。プロデュースはジョルジオ・モロダー。当時台頭してきた、ニュー・オーダーやデペッシュ・モード等のエレクトロ・ポップ・バンドに多大な影響を与えた。ミュージシャンのジャック・アントノフはスパークスを最初に聴いた時、「デペッシュ・モードみたいだ」と思い、後で「そうじゃない。デペッシュ・モードがスパークスに似ているんだ」と気づいたという逸話もある。

[5] 1975年の新建築の住宅設計競技の課題。『わがスーパースターのたちのいえ』。審査委員長は磯崎新。そしてその結果は。。。ほとんどが、海外の提案者が上位をしめた。磯崎はその審査評で「日本の建築教育の惨状を想う」というタイトルで、日本人提案のあまりの硬直化した状況を嘆いている。さらに相田武文が「犯されたい審査員を犯すこともできなかった応募者」という講評をおこなっている。今で言うところの「草食系」(ちょっと古い表現か?!)である日本人建築家の提案の惨状をみて「磯崎が新建築コンペにとどめを刺した」と評している。

[6]ベック,レッチリ,フランツ・フェルディナンド,デペッシュ・モード,ソニック・ユースなどが『スパークス・ブラザーズ』に登場。

[7] 映像ディレクター佐々木誠氏が「この2作は偶然かつ必然的に繋がっていて、(中略)「アネット」の違和感の答えは「スパークス・ブラザース」にあるし、「スパークス・ブラザース」の真のカタルシスは「アネット」にある。」と言及しており、まさにその通りだ。