2017/10/24

“負け犬”の凱旋

 90年代半ばに衝撃的にメジャー・デヴューした時に、どれほどの人が、そのアーティストが20年以上も、音楽シーンの最前線で活躍し続けることになる、と予想できただろうか?
 確かに、今になってみれば、「そう思ってたよ!」と言うのは簡単なことだ。しかし、最初に世に出た曲の名が「Looser」(負け犬)だったことを思い起こせば、そのあたりは、非常に感慨深いものである。
 ニュー・アルバム(これが、また素晴らしいに尽きる)のリリースに合わせて、緊急来日。東京は昨日の武道館と今日の2日のみ。
しかも、今日は新木場スタジオコースト。
 馳せ参じる。。。しかあるまい。
  個人的には久々のライブ・ハウス。ライブの最初から最後まで、テンションはフルスロットルで、多幸感という言葉以外にこの感情を表現できる言葉が見つからない。
 20数年前の負け犬は、時代を切り開くべきキラ星のような存在として凱旋していた。本名はハンセンを姓に持つ男。その名も、“BECK”(TM)
 



2017/10/23

風景の転換

 昨日の台風による長雨で、近くの武蔵関公園の池の水があふれている。なかなか、ささやかに衝撃的だ。知り合いからの情報によると善福寺公園の池もあふれているとのこと。
 池の周囲をぐるっとめぐっている、公園の地盤面より一段低くなっている散策路が完全に水没してしまって、そこにあるベンチが水の中にある。と、いうか、水の中にあたかも浮かんでいるようにみえる。この光景に静かに心が震えてしまう。
 ちょっとしたこと(でも、ないかな。台風だし。。。)で、日常の風景がまったく違ったものに転換している様子は、とても新鮮な感情をもたらしてくれる。平易な表現ではありますが、自然の力を再認識させられるのでありました。(TM)

2017/10/18

課題:ストゥージズの家

 武蔵野大学3年生の後期、設計演習(授業名:設計製図4の第1課題の講評会を開催。この授業は、僕を含め5名の建築家の先生と一緒に運営する、スタジオ制の設計演習。
 水谷スタジオでは例年、第1課題ではスーパースター(ロック・アーティスト)の家シリーズの課題を提示する。もうこれも13年目に突入。非常にコンセプチャルな課題で、学生にとっては非常に難しいと思うけど、頭をグルングルンさせ普段とはまったくちがう脳味噌の使い方をして思い切り頑張って欲しい、と例年思っている。
 今年度はこの9月にジム・ジャームッシュ監督の映画『ギミー・デンジャー』が公開され(全く余談になってしまうが、ほぼ同時にジャームッシュの『パターソン』という映画も公開されており、こちらも素晴らしい作品!)、それを観た衝撃に打ちのめされた(もちろんいい意味で)ということもあり、「ストゥージズ」(イギー・ポップ)(!)とした。おそらく、例年のテーマ以上に、学生は誰も本当に全く知らない課題ネタとなり、独りよがりにアツくなりながら、履修希望者が果たしているのか?と不安に駆られながら授業に臨んでいった。約3週間の短いスパンだが、履修者7名が課題に取り組み、77様のそれぞれ面白い提案が完成した。
 基本的に正解(らしきものも含む)がない課題なので、学生も困惑するが、講評する教員もいつもと違う所に頭をもっていかなければいけないので、講評会はいろいろな先生方の意見が聞けて、こちらとしても面白い。さまざまな技術や技能がどんどん展開していくこの世の中なのだが、最後は手描きのスケッチや絵が、まあまあパワーを持つということを改めて感じさせられれて(もちろん、これは良いと思っている訳だけど)こういうのも大切だよね、と、完全に自己満足(及び、自己弁護(!))しながら講評も無事に終了。   
 さて、課題全文を下記に流します。講評会の翌週は恒例の第1課題の打ち上げ&第2課題決起会@吉祥寺ハモニカ横丁。学生諸君には第2課題も健闘を期待します。(TM)

■課題:「The Stooges のいえ」
 「スーパースターの家」シリーズの第13弾の課題は、「ザ・ストゥージズ」である。 
 「ゴッド・ファーザー・オブ・パンク」と呼ばれ、カリスマ的な人気を誇るロック・アーティスト、イギー・ポップのバンドというのが一般的な認識である。67年初頭にアメリカのミシガン州デトロイト近郊のアナーバーで結成。たった3枚のアルバムを発表して74年に解散。当時、評論家からは「下品で退廃的」と叩かれ、正当な評価を得ることができなかったものの、後の時代に、セックス・ピストルズ、ニルヴァーナー、ソニック・ユース、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ホワイト・ストライプスなどのロック史上に名を残す名だたるバンドがストゥージズから影響を公言。イギーはストゥージズ解散後にソロ活動を展開するが、2003年に電撃的に再結成、2010年にロックの殿堂入りを果たす。今年、9月現在、映画監督のジム・ジャームッシュによる、ストゥージズを描いたドキュメンタリー長編映画『ギミ―・デンジャー』が日本公開されている。
 オリジナル・メンバーは、イギー(vo) 、ロン・アシュトン( g)、スコット・アシュトン(ds)、デイヴ・アレクザンダー(b)。デヴュ-作『ストゥージズ』(69)はヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルがプロデューサーとして就き、歌詞も音もミニマルなロックミュージックの世界を世に放ち、セカンドの『ファン・ハウス』(70)は一発録りの極致を目指し名曲群をうみ出された。2作とも商業的には惨敗したが、その後デヴィッド・ボウイがミキサーとして参加したサードアルバム『ロー・パワー』(73)をリリースするも、変わらないセールス不振や、過激過ぎるステージパフォーマンス、ドラッグの問題などが相重なり、バンドは一旦自然消滅する。
 時代の趨勢は皮肉なもので、世界に見捨てられたストゥージズなき後、勃発したパンク・ムーヴメント以降、評価が高まりカリスマ的な存在へと移行していく。現在のロック史上においては、この70年代後半のパンク、80年代を中心に栄華を極めるハード・ロック、90年代のオルタナティブ・ロックなどに影響を与え、それらのジャンル各々の原点と評価されるまでになっている。そして、2000年代に入りストゥージズは長い空白期を経て、復活を果たしていく[1]
 もともとこの課題のオリジナルは『わがスーパースターのたちのいえ』[2]というコンペの課題である。今年度は、その『スーパースター』をどうとらえられるかということを、ブルース、サイケデリック、グラム、パンク、ハード・メタル、ファンク、ノイズのどのジャンルにも属さない、史上最強の素行不良のロックバンド、ザ・ストゥージズの存在を冠して考えてもらいたい。
 課題へ取り組む糸口は、数多ある。イギー・ポップというアイコン、自殺行為と紙一重の肉体的ライブ・パフォーマンス、ベルベッド・アンダーグラウンド、デヴィッド・ボウイやJマスキス[3]、或いはジム・ジャームッシュとの相関関係、後世のロックへ与えた影響、デトロイト暴動が起こった60年代後半~現在という時代性、各々のメンバーや楽曲群、歌詞、等など。
 課題は、例年通りの前置になってしまうが、様々な社会性や文化性を持ったバンド(今も一応、現役)、ザ・ストゥージズという音楽グループの住まいを設計することではない。音楽という世界を通して創造をしているストゥージズの拠り所としての概念(→空間)はどのようなかたちで表現することができるのか、時間や空間を超えた構想力豊かな提案を期待している。


[1] 98年に公開された映画『ベルベット・ゴールドマイン』も再結成への一翼を担う。イギーをモデルとした役はユアン・マクレガー演。


[2] 1975年の新建築の住宅設計競技の課題。『わがスーパースターのたちのいえ』。審査委員長は磯崎新。そしてその結果は。。。ほとんどが、海外の提案者が上位をしめた。磯崎はその審査評で「日本の建築教育の惨状を想う」というタイトルで、日本人提案のあまりの硬直化した状況を嘆いている。さらに相田武文が「犯されたい審査員を犯すこともできなかった応募者」という講評をおこなっている。今で言うところの「草食系」である日本人建築家の提案の惨状をみて「磯崎が新建築コンペにとどめを刺した」と評している。


[3] ロックバンド、ダイナソーJr.のフロントマン。ライブへのロン・アッシュトン招聘を契機にストゥージズ再結成へと繋げていく。

2017/10/14

アーチの森2017

  武蔵野大学の学園祭(摩耶祭)(2017/10/1415)が開催される。例年、学園祭の実行委員会より依頼され、正門からアプローチした正面にある噴水広場の近くに、木造仮設建築物(作品名:『アーチの森』)を制作している。設計(デザイン)から施工まで、完全にセルフビルドでおこなうことが大きな特徴である。建築物は、学園祭のシンボルとしてPR機能を果たすことが条件として望まれており、後、制作チームとしては、このつくる建築で来場者の方々に憩い、たたずんで欲しいという思いがある。このプロジェクトも今年度で11年目になった。今年度は340mmを基本モジュールとした合板だけで建築をつくるというのが特徴で、構造体の各所にできる隙間に憩えるというものである。
 制作する学生は、厳然とした締め切り(学園祭初日の朝に建築が建ちあがってなければならないという縛り)があるので、作業後半は物凄いプレッシャーと共に作業をおこなうことになる。今年度は特に台風の襲来でかなりのガッツリとした雨に見舞われ、作業は困難を極めたが、完成した感動は何事にも代え難い、のではないかと思う。学生の皆さんはお疲れさまでした。
 会期中は雨の中、たくさんの方々に来場いただき、思い思いにこの建築にふれて頂きました。ありがとうございました。(TM)

2017/10/05

特論@千葉

 大学院の授業で、実際の建築を観るというプログラムを4回シリーズでおこなっている。ランダムに学生に4つの建築をセレクトしてもらい、その4作品を軸に建築(現代建築)の設計手法を斬っていくという、ある意味かなり乱暴な趣向で展開している。しかし、意外な共通項がみえてきたりと、その意外性が実は真髄にアプローチしていけるのではないか、という妄想を若干抱きながら、今回は千葉県立美術館(設計:大高正人)へ。
 昨年のゼミ旅行で坂出の人工大地をみて衝撃だったが、千葉県美も力強いまさに力作だと思う。展示室が増築可能な仕組みを持たせているような平面計画(正形の4隅が切り落とされており、その先端部が各室のジャンクションになっている)が特徴的。そして、展示室の四隅部に抜けや小さな空間を配していて、外部との連続性を感じられる空間構成が秀逸である。
 当たり前のことだが、実際に建築をみてみないと本当の意味で分からないのだなぁ、と改めて実感。
 ちなみに、後の3建築は、北斎美術館、瑠璃光院、六町ミュージアム、というラインナップ(個人的には、なかなか渋い感じじゃないかと思っている)。さて、どんな考察結果となるか、学生諸君に期待である。(TM)