2022/10/12

鬼灯とロッキー

 10月に入って、いよいよ秋の気配が深まりだした。 “秋は食欲の秋”ということで、ちょっと前に、ホオズキを食する機会があった。これが、もの凄くおいしかったので(そもそもホオズキを食べる機会がほとんどないし)、静かに深く感動してしまった。ホオズキは漢字では、「鬼灯」と書くらしく、これは、赤く灯る提灯というのが由来、ということだが、帰ってくるご先祖様が迷わないように、という意味合いで、お盆になると仏壇にホオズキを飾るという習慣にも繋がっているようだ。

ということで、ご先祖ではないが、帰還(ロッキーの!)、の話である。

 ちょっと前に映画『ロッキー4』(85年作)のリメイク版『ロッキーVSドラゴ』が、突如として上映公開された、のである。シルベスター・スタローンが、コロナ禍で時間ができたので、『ロッキー4』の再生を試みて、完全に編集をし直してつくり直したとのこと。個人的にはロッキー・シリーズの中で、この『ロッキー4』への思い入れが一番強く、高校1年の夏に、友達と部活の後に姫路の映画館に観に行った記憶が鮮明だ。話題性とは反比例して、当時から批評的にはかなりバカにされがちな感じだったのだが(確かに、劇中にものすごい雪山をロッキーがトレーニングの一環で踏破するシーンがあり、「さすがに、これは、ないやろ!(爆笑)」と映画館でスクリーンを観ながら友達と言い合っていた想い出がある)、それがどう更新されたのか、ということで、吉祥寺では、2週間限定でアップリンクで上映とのことで、馳せ参じる。

 約90分の映画のうち、40分以上の未公開映像を加えて、しかも全体の時間ヴォリュームは変わっていない、ということなので、おそらく映画の中でバンバン流れていたロック・ミュージックのシーンはかなりカットされているのではないか(ちなみに、「ハーツ・オン・ファイヤー」(byジョン・キャファティ)は2回も流れる)、と予想していたのだが、35年の月日を経て、再構築された作品は素晴らしかった。

 35年前の当時は、冷戦時代ということもあり、非常に反ソ連的なプロパガンダの色合いが強かったのだが(なので、非常にバカっぽく見えた。ので、このウクライナ侵攻時の現在において、再構築された意味は大きいと思う。)、今回のリメイク版では、ロッキーとドラゴ(対戦相手のボクサー)とその周りの人々の人間性にドラマの軸が置かれて、ある意味普遍的な人間の多様性の重要さが浮かび上がってきている(と思えた)。そして我々は既に、『クリード2』(『ロッキー4』の後日譚的な映画(2019年日本公開))を観ている、のである。感動の度合いは、半端ない。スタローンも「タイム・マシーンに乗ったような感覚だった」、と言及していたが、まさに、青春時代へタイム・トリップした感覚を存分に味合うことができた。

 さて、心配していた劇中の音楽だが、オリジナルでは冒頭のシーンに流れていた「アイ・オブ・ザ・タイガー」(byサバイバー)は、今回のリメイク版では流れず、「完全にカットされたなぁ」、と思っていたら、最後の最後のクライマックス・シーンで、感動的に鳴り響いていた。観た者は全て、「アイ・オブ・ザ・タイガー」を口ずさみながら、映画館を後にすることになる。そして、ちゃんと、「ハーツ・オン・ファイヤー」は2度流れる。合掌。(TM