2020/02/11

椅子の講評会2019(年度)

 例年そうだが、年度末なので様々な授業の講評会、発表会、審査会がおこなわれる。武蔵野大学で椅子をつくる授業をやっていて、その講評会を開催。今年度もゲスト講評者を招いての講評会を何とか無事に開催の運びに。木工作家の渡邊浩幸さん、映像ディレクターの土居京子さん、現代舞踏家の相原朋枝さん、ファッションデザイナーの國時誠さんにお越し頂き、それぞれの多様な視点から講評を頂く。僕以外はみなさん建築とは違った分野の方々なので、その講評も個人的にはとても楽しい。
 今年度は履修者18名で、それぞれ特徴のあるデザインの椅子ができあがった。今回の講評会を進めながら漠然と感じたことは、作品自体に力があって、プレゼン(魅せ方、話し方、など)のパフォーマンスがしっかりとしていると、作品の良さが確実に伝わる、というあまりに当たり前のことが当たり前すぎて、それが面白い、ということであった。
 つい最近のトピックで、ビリー・アイリッシュがグラミーを独占した訳だが、そのビリー・アイリッシュの何がすごいのか?本当にザックリりいというと、自身のPRDIYの徹底的な姿勢がすごい(もちろん楽曲も素晴らしいが)、ということを総括で講評させてもらう。
 建築の設計も、ある程度は同様のことが言えるが、建築の場合はそこまでやりすぎてしまうとNG、という側面もあり、なかなか難しい。。。いやはや。
 終わった後は、履修学生全員を交えて30名程で三鷹の店で打ち上げ。1年の集大成ということで、学生は一様に充実感を漂わせてくれていて嬉しい。さて、怒涛の年度末が続いていくのです。はい。(TM)


課題:「 レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが流れ
    僕たちは罵れないのかもしれない、と思いながら
    怒りに任せて罵っていいとき
    そんな時に座るイス」

【課題概要】

 91回(米国)アカデミー賞(2019年)において、最高の栄誉である作品賞を『グリーンブック』(監督:ピーター・ファレリー)が受賞した訳だが、受賞が発表された瞬間、同じく作品賞に『ブラック・クランズマン』でノミネートされていた映画監督のスパイク・リーが会場を退場しようとした(結局、会場スタッフに静止され席に戻る)一幕(AP通信記事による)が、ひと時話題になった。ここで面白いのは、両作品とも人種差別(黒人と白人の)を題材として扱った映画というイメージがあるが、その実、作品内で描かれているコンテンツやクオリティは、ある意味まったく正反対(ここは少し微妙なところはあるが、まあ言い切ってしまって多分支障ないだろう。。。)なものとなっている。
 この点において、最も重要なファクターは、“怒り”ということである。菊地成孔氏が、ある映画レビューサイトでこの『グリーンブック』を以下のように批評している。「つくりもんの定番品、その新しいやつで、安心して泣いた。合衆国民以外の特権だ。」
 そして、スパイク・リーとバリー・ジェンキンス(『ビール・ストリートの恋人たち』監督)、ジョーダン・ピール(『ゲット・アウト』監督)に向けて、という体裁で以下のように結んでいる。「お前らは『グリーンブック』の受賞について、クソだらけに罵って良い。俺たちは罵れない。泣いてるし。ちなみにタイトルは悪い。象徴的でもないし気も利いていない。」と。
 これは例えば、のはなしである。『グリーンブック』やスパイク・リーや、課題タイトル冒頭のレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(やトム・モレロ)もあくまでも一例だ(レイジの替わりにピストルズでも、クラッシュでも、リンキン・パークでも、JBでも、あなたの好きな対象に置き換えてもらっても差支えはない)。
 “怒らない世代”(あなた達)が怒る(或いは主張するでも良い)時、どうするのか?
 様々に考えを巡らしてみてください。魅力的なイスに出会えることを期待しています。                     (水谷俊博)