2017/03/02

Lab.引継会@吉祥寺


 年度末ということもありさまざまな事柄がまとめに入っている。
 4年生は卒業間近になってきた。
 来年度水谷研に配属のメンバーを交え、11期生、12期生の引継会を吉祥寺にて開催。1学年しか違わないので、さすがに知らない顔はいないと思うが、じっくり話したことない学生同士の関係もあり、我ながら本当にいい機会だと思う。
年度末のまとめの一環だが、大学では年度毎に学生の作品集(『Mu』というタイトルの小冊子です)を制作しており、そこに掲載するための文章も現在進行形でバリバリと執筆中。その中で、今年度は巻頭あいさつのテキストを書くことになった。ちょっとフライング気味ですが、2016年度を振り返るということで、全文を以下に掲載させていただきます。
 さて、いよいよ来年度へ向けて始動しだす。

2016年度『Mu 』はじめに
 2016年度(今年度)を振り返ると、やはり、アメリカの大統領が交代したことが最も大きなニュースと言ってもいいかもしれません。この文章を書いている今も、現在進行形で新しいアメリカ大統領に関するさまざまなニュースが流れており(残念ながら、それらのほとんどが、あまり良いとは言えないものではありますが。。。)、世界の状況はなかなか油断ができなくなってきているように感じます。そういう訳で、昨今はどうしても新しい大統領に目を奪われがちですが、今年度ということになると、ひとつ大きな出来事がありました。それは、2016年の527日に前大統領であるバラク・オバマ大統領が広島を訪問した、ということです。
 その時の演説(オバマ前米大統領 広島演説)は、序盤「なぜ私たちはこの場所に、広島に来るのでしょうか?」という言葉で始まります。この言葉に『場所(性)』ということが非常に強く読み取れると僕は感じます。舞台の中心になった広島平和記念公園、及び広島平和記念資料館は建築家の丹下健三が全体の計画をおこなったという経緯があります。広島という場所性に建築的な手法で更なる場所性を付加することにより、この空間にいる人々が重層的に広島の場所としての空気を享受することができているのではないかと思います。建築のもつ力(そしてその影響)というものを実感として感じることのできる、素晴らしい実例だと思います。
 そしてオバマ前大統領は演説の最終盤で私たちが広島に来る理由を語ります。「この場所において世界は永久に変わってしまいましたが、今日この街の子供たちは平和に一日を過ごすはずです。何と貴いことでしょう。それは護るに値する、そしてすべての子供たちに届けてゆくに値するものです。それこそが私たちが選びうる未来なのです。」、と。
 さて、この冊子『Mu』も本号でNo.13となり、創刊から13年が経過したことになります(正確にいうと創刊準備号のNo.0がありましたので14年ということになりますが)。この歳月は、広島からの71年という年月と比較するとちっぽけなものかもしれませんが、時間の蓄積の大きさをある程度充分に感じさせるものだと感じます。その蓄積があって、この冊子に掲載されているような作品群が今年度もつくり上げることができた、という思いを禁じえません。さて、次の2017年度はどんな学生たちの活動が展開するでしょうか?
 オバマ広島演説は最後にこのメッセージで終わります。「その未来にあって、広島と長崎は、核戦争の幕開けの場としてではなく、私たちの道義心が目覚めた場として知られることになるのです。」
 やはり最後も場所性ということを強く意識させられると感じます。さて、僕たちの場所性はどうでしょうか?武蔵野、有明の各々の場所で培ってきたものはここで学んだ学生のみなさんが護るべきモノとして多かれ少なかれ育んでくれることを期待しています。そして、建築をベースに、何らかのスピリッツが目覚めることを、自分も含め、心がけていきたいと思います。いつしか、ささやかながら、ということでもいいと思いますが、建築をデザインする行為が道義的想像力に繋がることを目指して。
(※文中のオバマ前米大統領による広島演説に関しては、雑誌『SWITCH20167月号に掲載の、翻訳家の柴田元幸氏によるテキストより適宜抜粋をしました。)
(TM)