2016/05/15

黒田清輝展@上野

 ずっと観よう、観ようと思っていたが、やっと会期最終日に『生誕150年黒田清輝 日本近代絵画の巨匠』展を観覧に上野の国立博物館に。ある程度予想はしていたが、ものすごい人出で、やはり作品を観るというよりは、人を観ているという感じ(しかも小さな子供を2人連れていたので、じっくりと観ている余裕はない)。
 しかし、ある程度しっかりと絵画群を観ることができた。今回の展覧会の目玉は何といっても『智・感・情』の3組の絵画。これが会場の最後に展示されているという展示構成をとっていて、そこが圧巻だ。
 日本近代絵画の祖であり、日本における洋画を誕生させたとされる黒田清輝だが、代表作の『湖畔』や『読書』のような、いわゆる日本における洋画然としたスケッチから完成へと構築しているようなテイストと、『智・感・情』は全く違うものである。これが、黒田清輝の神髄といっても過言ではないだろう(美術評論界の話は詳しくないので、間違った見解かもですが。。)。しかしこの作品はパリ万博で一部のコアな層から評価されたが、国内ではまったく理解されず、師匠のラファエル・コランからもいい評を受けずに、自身でお蔵入りさせることになる、という経緯が興味深い。しかもこの後、黒田清輝は政界にも身を置くようになるため、新しい絵画の地平を開くという活動は(結果的に)影を潜めることになる。
 ここに、作品の本当のクオリティと評価の関係というものの妙があり、時代の悲哀というものを感じる。
 でも、実際の絵を眼前で観ることにより、西洋の模倣とみなされがちな日本における洋画の中に、真のオリジナリティをうみ出した作品も(しかもそれもたった一つ)ある、という事実に感動を禁じ得ないのである。現在ある評価というものも絶えず疑ってかかる柔軟性と審美眼が大切なんだよなぁ、と改めて思う、まさに上野の日曜美術館でありました。(TM)