少し前の話になってしまったが、武蔵野大学3年生の後期、設計演習(授業名:設計製図4)の第1課題の講評会を開催。この授業は、僕を含め5名の建築家の先生と一緒に運営する、スタジオ制の設計演習。水谷スタジオでは例年、第1課題ではスーパースター(ロック・アーティスト)の家シリーズの課題を提示する。もうこれも14年目に突入。非常にコンセプチャルな課題で、学生にとっては非常に難しいと思うけど、頭をグルングルンさせ普段とはまったくちがう脳味噌の使い方をして思い切り頑張って欲しい、と例年思っている。今年度は結成50周年ということで、王道中の王道「レッド・ツェッペリン」をついに投下。個人的には一家に一枚ツェッペリン、くらいの超メジャーな課題ネタと思っているが、意外、というか、当たり前のように学生世代の人たちにとっては、全く未知の存在のようで、いささかズッコケ気味で授業に臨む。約3週間の短いスパンだが、履修者10名が課題に取り組み、10者10様のそれぞれ面白い提案が完成した。
基本的に正解(らしきものも含む)がない課題なので、学生も困惑するが、講評する教員もいつもと違う所に頭をもっていかなければいけないので、講評会はいろいろな先生方の意見が聞けて、こちらとしても面白い。さまざまな技術や技能がどんどん展開していくこの世の中なのだが、最後は手描きのスケッチや絵が、まあまあパワーを持つということを今年も感じさせられて(もちろん、これは良いと思っている訳だけど)こういうのも大切だよね、と、完全に自己満足(及び、自己弁護(!))しながら講評も無事に終了。
さて、課題全文を下記に流します。講評会の翌週は恒例の第1課題の打ち上げ&第2課題決起会@吉祥寺ハモニカ横丁。若干、パワー不足の学生も見られたが、学生諸君には第2課題も健闘を期待します。(TM)
■課題:「Led Zeppelin のいえ」
「スーパースターの家」シリーズの第14弾の課題は、ロック史上にナンバーワン・グループとしてその名を残す「レッド・ツェッペリン」である。レッド・ツェッペリンがデビューしたのは1968年の10月である。ビートルズ、ストーンズにと並ぶビッグ・バンドとしての地位を築く訳だが、デビューは華々しいものでは無かった。しかし、ロック史上においてみると、デビューアルバム『レッド・ツェッペリンⅠ』は衝撃であり、当時停滞期にあったハード・ロック・シーンをツェッペリンはこの1枚によって生き返らせることになる。一般的なイメージではツェッペリン=ハード・ロックというイメージだが、サード・アルバムから音楽的な思考は多様で重層的な要素を孕み出し、アルバムを重ねる毎にまさに混とんとした音の塊のような音楽を展開していく。今年バンド結成50周年ということで、音楽界でもさまざまな特集や企画が催されている。
メンバーは、ジミー・ペイジ(g) 、ロバート・プラント(vo)、ジョン・ボーナム(ds)、ジョン・ポール・ジョーンズ(b)の黄金の4人。衝撃のデヴュ-作を含め、ほとんど全てのアルバムがロック史上に残る名盤に数えられるのが特徴。ファーストに続く『レッド・ツェッペリンⅡ』(69)は「アビイ・ロード」を蹴落としてチャート1位になった大出世作であり、『レッド・ツェッペリンⅡ』(70)は「ロック=リフ」という方程式を世界に示した作品、4作目[1](71)は『天国への階段』をはじめロックの新たな方向性を示した大作、5作目の『聖なる館』(73)はその4作目までの集大成的作品、74年に彼らが設立したスワン・ソング・レコードからの第1弾『フィジカル・グラフィティ』(75) はロック史上最強の2枚組の一つにあげられる1枚、7作目の『プレゼンス』(76)は後期ツェッペリンの最高傑作と評される傑作である。
その後、アルバム『イン・スルー・ジ・アウトドア』をリリースした後、1980年にドラマーのジョン・ボーナムの死によりバンドは継続が不可能になり解散。82年にボーナムへの追悼アルバム『CODA』が発表され、これが現在のところ最後のオリジナル・アルバムとなる。但し、現在に至るまで世界で一番再結成が望まれるバンドであり、数回「Led Zeppelin」名義でライブ・アクトが行われ(特に2007年の一夜限り再結成等)、その度に世界中から注目を浴びている。
もともとこの課題のオリジナルは『わがスーパースターのたちのいえ』[2]というコンペの課題である。今年度は、その『スーパースター』をどうとらえられるかということを、史上最強のロックバンド、レッド・ツェッペリンの存在を冠して考えてもらいたい。
課題へ取り組む糸口は、数多ある。ツェッペリン自体のアイコン、時代の先駆者としての精神性、後継するアーティスト達への絶大な影響、世界ロック三大ギタリストとしてのジミー・ペイジのスタンス、ロバート・プラントのソロ活動、或いは『天国への階段』の詞性、ロック史が激動する60年代後半~70年代~現在という時代性、各々のメンバーや楽曲群、歌詞、等など。
課題は、例年通りの前置になってしまうが、様々な社会性や文化性を持ったバンド(今も一応、現役)、レッド・ツェッペリンという音楽グループの住まいを設計することではない。音楽という世界を通して創造をしているツェッペリンの拠り所としての概念(→空間)はどのようなかたちで表現することができるのか、時間や空間を超えた構想力豊かな提案を期待している。
[1] 邦題『レッド・ツェッペリンⅣ』は便宜的に付けられたもので無題のアルバム。ジャケットに4つのシンボルマークがあることから、通称、「フォー・シンボルズ」や「Ⅳ(フォー)」と呼ばれている。内袋全体にぎっしりと歌詞が書き込まれるなどの特徴がある。
[2] 1975年の新建築の住宅設計競技の課題。『わがスーパースターのたちのいえ』。審査委員長は磯崎新。そしてその結果は。。。ほとんどが、海外の提案者が上位をしめた。磯崎はその審査評で「日本の建築教育の惨状を想う」というタイトルで、日本人提案のあまりの硬直化した状況を嘆いている。さらに相田武文が「犯されたい審査員を犯すこともできなかった応募者」という講評をおこなっている。今で言うところの「草食系」である日本人建築家の提案の惨状をみて「磯崎が新建築コンペにとどめを刺した」と評している。